東京電力の新々事業計画、2020年代の自立を目指すも道険し電力供給サービス(1/4 ページ)

東京電力グループは2017年度から「新々総合特別事業計画」のもと、福島事業・経済事業・原子力事業の3本柱で変革を進めていく。国の改革案に沿って火力発電・送配電・原子力事業を他社と統合して競争力を高める方針だ。国有化の状態から脱却するために年間5000億円の利益創出を目指す。

» 2017年03月24日 09時00分 公開
[石田雅也スマートジャパン]

 東京電力ホールディングス(東京電力HD)は株式の過半数を保有する国の原子力損害賠償・廃炉等支援機構と共同で、「新々総合特別事業計画(新々総特)」の骨子を3月22日に発表した。東京電力グループの事業構造を変革して収益性を高める施策をまとめたもので、2012年に開始した「総特」、2014年からの「新総特」に続く第3弾の事業計画である。

 新々総特で掲げる改革の柱は、東京電力グループの発電・小売・送配電・原子力の4事業を他社との提携・統合を通じて抜本的に再編することにある(図1)。先行する火力発電事業では、中部電力と合弁で2015年に設立したJERA(ジェラ)に両社の火力発電所と燃料事業を完全に統合する体制に変わる。

図1 東京電力グループの事業再編の方向性と課題。HD:ホールディングス、1F:福島第一原子力発電所。出典:経済産業省

 小売事業ではソフトバンクやニチガスをはじめ他社との業務提携を拡大して家庭向けのサービス体制を強化する。日立製作所やパナソニックと共同で家庭を対象にした遠隔監視サービスの実証試験にも着手した。残る送配電事業と原子力事業は他の地域の電力会社と事業の統合を目指して、2017年度内にも共同事業体の設立準備に入る予定だ。

 一連の事業再編を通じて収益性を高めることによって、年間の利益額を現状の4000億円規模から5000億円程度へ引き上げる(図2)。この利益をもとに総額22兆円にのぼる見込みの福島第一原子力発電所の廃炉・賠償・除染費用をねん出していく。並行して国が保有する株式を売却して、国有化の状態から脱却することが最終的な目標だ。

図2 東京電力グループの経営改革による利益改善案。出典:経済産業省

 原子力事業では他社との統合を進める前に、新潟県にある柏崎刈羽原子力発電所の再稼働を見込んでいる(図3)。合計で7基ある発電設備のうち最新の2基(6号機・7号機)を対象に原子力規制委員会の審査を受けているところだ。再稼働できれば1基あたり年間に500億円、2基を合わせて1000億円程度の利益を上積みできる。

図3 「柏崎刈羽原子力発電所」の全景(上)、発電設備の概要(下)。出典:東京電力ホールディングス

 とはいえ新潟県民から反対の声が強く、今のところ再稼働のめどは立っていない。しかも重大事故が発生した時に対策の拠点になる免震重要棟の耐震性が不足している点について、原子力規制委員会に報告していなかった事実が明らかになった。規制委員会の委員長から「相当深刻に反省していただきたい」と注意を受けており、当面は審査を通過する状況にない。

 東京電力HDは新々総特の骨子に基づいて、4月中に詳細な事業計画を策定して国に認可を申請する。新々総特の骨子に掲げた各種の施策は昨年12月に国の委員会が提言した改革案に従ったもので、申請した事業計画に認可が下りることは確実だ。それでも原子力発電所の再稼働をはじめ、計画どおりに施策を実行できない可能性は大いにある。

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