自然エネルギー財団は、日本での国際電力網連系実現に向けて検討した「アジア国際送電網研究会 中間報告書」を公表した。現在の日本、アジアにとって必要不可欠ではないだろうかと、国際送電網の可能性を提言。基本的な考え方をはじめ、各国の取り組みを紹介している。
どうして今、アジアで国際送電網なのか。「現在の日本、アジアにとって必要不可欠ではないだろうか」と、その可能性を主張するのが自然エネルギー財団だ。国際送電網とは、国境を越えて電力をやりとりするための送電線から成るネットワークである。
自然エネルギー財団は2017年4月、日本での国際電力網連系実現に向けて検討した「アジア国際送電網研究会 中間報告書」を公表した。同年4月24日に説明会を開催し、都留文科大学社会学科の教授を務める高橋洋氏が、中間報告書の内容を紹介した。
高橋氏は自然エネルギー財団の特任研究員も務め、2016年7月に設置された「アジア国際送電網研究会」の座長代理である。電力系統やエネルギー政策の研究者、自然エネルギーの専門家がメンバーとして集い、国際送電網に関する議論や欧州への視察を重ねてきた。横浜国立大学大学院工学研究院の教授である大山力氏が座長を務める。
日本に国際送電網は存在しないが、世界では特別なことではないという。欧州では電力輸入率が11.3%、電力輸出率が11.2%と国際連系が活発である(図1)。デンマークはともに30%を超える一方で、ベルギーやイタリアは輸入率が高く、フランスやノルウェーは輸出率が高い。米国や中国、ロシアは国内市場が大きいこともあり、輸出入ともに1%前後と低い。日本と韓国は国際連携をしていないため、どちらも0%だ。
「地域によって幅はあるものの、電力も貿易が可能であり、一定の条件のもとでは十分に合理性があると認識することが、議論の出発点である」(自然エネルギー財団)
中間報告書の第1章「国際送電網の基本的考え方」では、その目的に以下の3つを挙げる。
1つ目は経済効率性の向上である。電力価格の差が大きいほど、価格平準化効果は大きくなり、貿易の便益は大きくなる。大きな市場を持つ国家間のほうが国際連系の効果はより高くなるが、時間帯や取引規模などによって需給パターンが異なり価格差が生まれるため、価格の安い国が一概に高騰するわけではないという。
2つ目は広域運用による電力の安定供給への寄与だ。ネットワークが大きくなり、多くの発電所と消費者を統合することで、需給バランスの調整は一般的に容易となる。しかしネットワークの一部で停電が起きると、広域に波及するというマイナス面もある。
3つ目は出力変動対策に効果的で、自然エネルギーの導入に寄与することである。風力や太陽光の割合が増えると、天候などに応じて供給パターンのブレが大きくなるが、より多くの分散型発電設備がつながることで「平滑化効果」がもたらされる。結果的に気候変動対策となる上、エネルギー自給率の向上にも寄与するとした。
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