“究極”の空気電池、実用化へ「最大のボトルネック」を突破する新電解液蓄電・発電機器(1/2 ページ)

高容量かつ安価な“究極の二次電池”として実用化への期待がかかるリチウムイオン空気電池。物質・材料研究機構の研究チームは、リチウム空気電池の課題である、エネルギー効率と寿命を同時に改善できる新しい電解液の開発に成功した。

» 2017年08月03日 07時00分 公開
[陰山遼将スマートジャパン]

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 現在主流のリチウムイオン二次電池より高容量な、次世代の電池として期待されているリチウム空気電池。理論上、リチウムイオン二次電池の5〜10倍、さまざまな二次電池の中で最も高いエネルギー密度を実現できる“究極の二次電池”とされている。

 高容量でありながら、リチウムイオン二次電池のように正極にコバルト系やマンガン系化合物を用いることなく、リチウム金属の負極と電解液、正極の空気極だけで作動するため、大幅なコストダウンも期待できる。ただし、現時点では基礎研究の段階にあり、実用化に向けてはエネルギー効率や電池寿命の改善が求められている。

 物質・材料研究機構(NIMS)の研究チームは2017年7月31日、リチウム空気電池のエネルギー効率と寿命を同時に改善できる新しい電解液を開発したと発表した。エネルギー効率を60%程度から77%に、従来20回以下であった充放電サイクルの寿命を50回以上に高めることができたという。

 リチウム空気電池は、正極の空気極、セパレーター、リチウム金属の負極を重ね、電解液を入れるだけのシンプルな構成である。放電反応では、負極からリチウムが溶け出し、正極で酸素と反応して過酸化リチウムを析出する。充電反応では反対に、正極の過酸化リチウムが酸素とリチウムに分解し、負極にリチウム金属が析出する。

リチウム空気二次電池の概念図 出典:NIMS

 現状のリチウム空気電池の効率が低い原因には、充電時の反応が挙げられる。過酸化リチウムは分解が起こりにくいため、正極の過電圧が上昇する傾向にある。すると放電電圧と充電電圧比率、つまりエネルギー効率が60%程度と非常に低くなってしまう。高い電圧は好ましくない副反応を引き起こすことにもつながる。

 もう1つの原因が、リチウム金属が負極に析出する際に、デンドライト状(樹枝状)になるという問題だ。これは、リチウム金属の寿命を低下させるとともに短絡事故の原因にもなる重大な問題だが、まだ根本的な解決策は見つかっていないという。研究グループは「これらの2つの問題が、リチウム空気電池の実用化を阻む最大のボトルネック」としている。

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