膨大な製鉄所のCO2排出、「水素+分離回収」で30%削減へ道筋省エネ機器

NEDOが製鉄高炉から排出されるCO2を、水素と分離回収で削減する技術の実証で成果。技術の確率にめどが達、製鉄プロセスのCO2排出量を約30%削減する目標達成に向け、大きく前進したという。

» 2018年02月27日 09時00分 公開
[長町基スマートジャパン]

 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は、神戸製鋼所、JFEスチール、新日鉄住金、新日鉄住金エンジニアリング、日新製鋼と共同で、新日鉄住金の「君津製鉄所」構内に建設した試験高炉で実施していたCO2排出低減効果の検証試験を完了したと発表した。水素を活用して高炉のCO2排出量を削減するとともに、CO2を分離回収する技術の検証を目的としたもので、技術の確立にめどが立ち、製鉄プロセスのCO2排出量を約30%削減する目標達成に向け、大きく前進したとしている。

 鉄鋼業から排出されるCO2は、1.8億トン(2013年度)と、産業・エネルギー転換部門の中で多く、日本のCO2排出量の14%を占めるため、鉄鋼業からのCO2排出量の削減が求められている。日本の鉄鋼業は、1970年代以降、省エネルギー化に取り組み、現在では鉄鋼生産におけるエネルギー効率は世界トップクラスだが、さらなるCO2排出量削減には、革新的な製鉄プロセスの技術開発が必要となっている。

 こうした中、NEDOは、CO2排出の抑制とCO2の分離・回収により、製鉄所からのCO2排出量を約30%削減する技術の確立を目指して「環境調和型製鉄プロセス技術の開発/水素還元活用製鉄プロセス技術開発」を実施し、フェーズI-STEP1(2008〜2012年度)では、要素技術を開発した。

 さらに、フェーズI-STEP2(2013〜2017年度、予算規模約160億円)で、NEDOは事業委託先の五社とともに、フェーズI-STEP1の要素技術の開発成果と課題を反映させ、2016年度に新日鉄住金の君津製鉄所構内に世界最大規模の試験高炉を建設し、同試験高炉で、製鉄プロセスにおけるCO2排出低減効果の検証試験を完了した。

NEDOが目指す新しい製鉄プロセスの概念図 出典:NEDO

 検証試験では、試験操業により水素を鉄鉱石の還元材として利用することでコークス使用量を削減し、高炉からのCO2排出量を削減する技術と、高炉ガスからCO2を分離・回収する技術の実証を実施した。

 高炉からのCO2排出量削減については、これまでに試験高炉で主として水素還元などの送風操作、水素還元に適したコークスを使用した反応操作などを検討するために、試験操業を計4回実施。その結果、高炉内での複雑かつ非定常な反応を予測する3次元数学モデルを活用するとともに、長期間に渡る安定的な試験操業を進めることで、試験高炉からのCO2排出量削減を可能とする技術の確立にめどが立った。

 高炉ガスからのCO2分離・回収については、これまでに開発した低い温度での反応性に優れる吸収液のさらなる改良に加え、製鉄所からの未利用廃熱を有効利用する技術などを総合的に組み合わせることにより、国内製鉄所内の諸元(CO2処理量、分離回収設備の配置や高炉の操業条件など)が変わった場合でも、CO21トン当たりの分離・回収コスト2000円以下という目標を十分に達成できる見込みを得た。

試験操業を実施した試験高炉とCO2分離・回収設備 出典:NEDO

 また、試験高炉の試験操業の中で、試験高炉からの高炉ガスをCO2分離・回収設備に通気することで、実際の運転環境に近い条件でCO2分離・回収の処理速度や連続操業への影響などを検証した。その結果、CO2分離・回収設備と試験高炉との連動性に問題がないことを確認できたとしている。

 なお、今回の成果を基にNEDOは、フェーズIIで試験高炉における操業条件の最適化、実高炉を用いた水素還元効果の部分検証と3次元数学モデルの精度向上などを進め、CO2排出低減効果を検証する予定だ。これらの取り組みにより、2030年ごろまでに高炉からのCO2排出量を約30%削減する技術確立と実機1号機実用化、2050年までの普及を目指す。

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