岐阜大学が結晶シリコン系太陽電池の発電能力を大幅に劣化させる現象である「電圧誘起劣化(PID)」について、簡易かつ低コストな抑制手法を開発。液体ガラスで作製したガラス層を高抵抗層導入することで、PIDを抑制できることを検証したという。
岐阜大学は2019年3月、結晶シリコン系太陽電池の発電能力を大幅に劣化させる現象である「電圧誘起劣化(Potential Induced Degradation、PID)」を、簡易かつ低コストで抑制する方法を発明したと発表した。太陽電池モジュールの生産工程におけるPID抑制加工や、稼働中の太陽光発電所におけるPID抑制対策への貢献が期待できるとしている。
太陽光発電所に用いられる太陽電池モジュールはさまざまな原因によって発電能力が年々劣化する。劣化原因の1つであるPIDは、高電圧で運用されるメガソーラー発電施設を中心に広く普及しているp型結晶シリコン系太陽電池モジュールで頻発するといわれている。
大きな出力低下につながるPIDは、太陽電池モジュールのフレームもしくはカバーガラスと太陽電池(セル)の電極の間に、何らかの原因によって高い電圧が発生し、セルの電圧がマイナスである場合に、カバーガラスに含まれるナトリウム(Na)がセル内部に移動するために起こると考えられている。また、温度、湿度、電圧などの条件が影響しているともされる。なお、太陽電池モジュール部材中におけるナトリウムの移動過程の詳細は明らかになってはいない。
近年、PIDの発生メカニズムとして、セル表面の反射防止膜(ARC=Anti-Reflection Coating)に高い電圧が加わることが大きく関係している可能性が指摘されている。そこで岐阜大学の研究チームは、ARCに高い電圧が加わることを防ぐために、液体ガラスで作製したガラス層を高抵抗層として太陽電池モジュールに挿入し、これに電界を集中させる方法を考案。通常のガラス層がない場合とカバーガラスとセルを包む封止材(EVA)の間に挿入した場合、カバーガラスの表面に作製した場合を比較して、その効果を確かめた。
太陽電池モジュールに短時間で高い電圧をかけてPIDの状態にする試験(PID試験)を行った結果、ガラス層がない場合は大きく劣化したのに比べて、ガラス層をカバーガラスとEVAの間に挿入した場合は、PID発生を遅延させる効果が見られた。また、ガラス層をカバーガラスの表面に作製した場合でも、ある程度のPID抑制効果が確認されたという。
今回考案したPID抑制技術は、太陽電池モジュールの部材や構造を大きく変えずに導入できる。また、高抵抗層形成用材料として液体ガラスを用いることから、多様な形状および大面積の太陽電池モジュール部材に導入しやすく、太陽電池モジュールの生産工程で、EVAとカバーガラスの間にガラス層を挿入するPID抑制加工や、設置済みのメガソーラー発電施設のカバーガラス表面にガラス層を塗布することで、PIDを抑制するといった適用が可能としている。
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