再エネ普及のカギとなる「需給調整市場」が本格始動、東電や関電がVPPで参入エネルギー管理(1/2 ページ)

再生可能エネルギーなどの出力が変動する電源の導入拡大に伴い、電力需給の「調整力」の取り引きに注目が集まっている。2021年4月には調整力を取り引きする「需給調整市場」がスタートし、東京電力や関西電力が参入を表明。工場やビルなどの電力需要家にも収益機会の可能性がある新市場だ。

» 2021年06月25日 07時00分 公開
[スマートジャパン]

 再生可能エネルギーなどの出力が変動する電源の導入拡大に伴い、電力需給の「調整力」の取り引きに注目が集まっている。2021年4月には調整力を取り引きする「需給調整市場」がスタート。東京電力や関西電力は、需要家の分散リソースを統合管理する「仮想発電所(VPP)」を活用するかたちでこの市場に参入した。調整力のニーズ拡大は、工場やビルなどを保有する需要家にとっても、新たな収益機会となる可能性がある。

 電力はその需要と供給を常に一致させる必要がある。この原則を守るために、電力需給を調整する能力を調整力と呼ぶ。例えば電力需要が高まった際に、工場にある発電機の出力を押さえる、蓄電池に貯めてあった余剰電力を放電する――といった取り組みは「調整力の提供」といえる。

 こうした調整力の効率的かつ大規模な提供手段として、発電機や蓄電池などの複数のリソースを統合管理し、1つの大きな発電所のように運用するのが仮想発電所(VPP)だ。

新市場の開設で「調整力」を取り引きしやすく

 これまで調整力は、一般送配電事業者(TSO)が各エリア内で公募によって調達を行っていたが、2021年4月に需給調整市場が開設され、全国的な取り引きが可能となった。買い手となるのは電力需給の調整を担うTSO、売り手となるのは調整力となる発電設備などを持つ発電事業者や、需要家のリソースを統合管理するアグリゲーターと呼ばれる事業者だ。

 同市場では、調整力を5つの区分に分けて取り引きを行う。4月から最初に取り引きが始まったのが、もっとも応動時間が長い「三次調整力II(実際は丸付きの2)」と呼ばれる調整力だ。応動時間とは、TSOから需給調整の指令が出されてから、求められる調整力の供出にかかる時間のこと。三次調整力IIは主に再生可能エネルギーの出力変動に対し、経済的に需給調整を行うための調整力と位置付けられている。2021年度は三次調整力IIのみを取引対象とし、2022年度以降、順次取り扱う調整力区分を広げる計画となっている。

需給調整市場の商品区分 出典:2020年8月7日 第18回 需給調整市場検討小委員会 配布資料より

東京電力や関西電力がVPPで市場に参入

 東京電力エナジーパートナー(東電EP)では、市場がスタートした4月に三次調整力IIの取引市場に参入した。VPPの技術を利用し、調整力として三菱マテリアルの筑波製作所に設置されたNAS電池を活用する、リソースアグリゲーターとしての参入だ。

 調整力となるNAS電池は容量1万4400kWh(キロワット時)で、1000kW(キロワット)の調整力を供出できる。TSOからの指令に応じて、余剰電力を貯めた蓄電池からの充放電などを最適に制御し、調整力を提供する仕組みだ。

需給調整市場における運用のイメージ 資料提供:東京電力エナジーパートナー

 実際の運用では、入札した時間帯(調整力を提供する時間帯)の45分前にTSOから制量の指示を受け、その指令値に合わせて蓄電池の制御を行う。ただし、指令値は30分間隔で更新されるため、リソースアグリゲーターにはそれに合わせリソースを最適化する制御技術の精度が求められる。東電EPは事前の審査で、実運用より細かい5分単位での制御で成功率100%を達成したという。同社では今後、こうしたVPP技術の精度を武器に、需給調整市場などへの参加を検討する需要家に対しての提案を加速させる方針だ。

 大手電力会社では、関西電力も2021年6月から三次調整力IIの市場に参入。同社が強みとするのが、独自のVPPプラットフォーム「K-VIPs」だ。2019年から運用を開始したプラットフォームで、同社と調整力の供給契約を結ぶ顧客に対し、需給調整の結果などをリアルタイムに報告できるという。関西電力では2020年から需給調整市場の開設を見据え、参入要件に対応する機能の追加など、対応を進めてきた。

VPPプラットフォーム「K-VIPs」の概要 資料提供:関西電力
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