運輸部門の脱炭素化に向けて、既存の化石燃料の代替となる合成燃料「e-fuel」の本格的な普及に向けた検討が始まった。技術・価格面において残る課題、事業環境の整備に向けた今後の論点を整理する。
日本の年間CO2排出量約11億トンのうち、自動車・航空・船舶等の運輸部門は約19%を占めている。(2019年度)
運輸部門の多くは現在、化石燃料由来の液体燃料を使用しているが、2050年カーボンニュートラルに向けては、電動化への転換および燃料の脱炭素化が求められている。
このうち、液体燃料の脱炭素化策の一つとして有望視されているのが、「合成燃料(e-fuel)」の活用である。
合成燃料とは、二酸化炭素(CO2)と水素(H2)を合成して製造される液体燃料であり、複数の炭化水素化合物の集合体であるため、「人工的な原油」とも呼ばれている。
資源エネルギー庁は2021年4月の「合成燃料研究会 中間取りまとめ」を経て、2022年9月に「合成燃料(e-fuel)の導入促進に向けた官民協議会」を設置し、技術・価格面の課題解決や事業環境整備を通じた合成燃料の商用化を促進することとした。
合成燃料の製造には様々な方法があるが、現在はCO2からCO(一酸化炭素)に転換し(逆シフト反応)、そのCOをH2と反応させる(Fischer-Tropsch合成反応:FT合成)方法が一般的である。
合成燃料の原料の一つであるCO2は、当面は発電所や工場などから排出されたCO2を回収し(カーボンキャブチャー)、使用することが想定されている。
このため合成燃料は、カーボンリサイクル技術の一つとして位置付けられており、CO2排出を発電所等の一次排出源側でカウントすることを前提として、「脱炭素燃料」であるとみなされている。
ただし、合成燃料の燃焼時点では大気中にCO2が排出されるため、CO2排出量算定や環境価値の取り扱いについては、必ずしも国際的な評価が定まっているわけではない。
将来的には、「DAC(Direct Air Capture)技術」を用いて、大気中のCO2を直接分離・回収することが想定されている。
合成燃料のもう一つの原料である水素H2についても、化石燃料から製造することも可能であるが(グレー水素)、再エネ電力を用いた「水電解」により得られた水素(グリーン水素)を調達することが原則と考えられている。
製造工程で再エネ電力を使うため、合成燃料は海外では「electro fuel(e-fuel)」とも呼ばれている。
このようにして製造された合成原油そのものや、そこから精製された合成ガソリン等の合成燃料の成分は、従来の化石燃料とほぼ同じであるため(重金属等が含まれずクリーンである)、既存の化石燃料インフラや機器類がそのまま継続使用できるという大きなメリットが存在する。またエネルギー密度の高さ、可搬性、貯蔵の容易性等の特長も、液体化石燃料と同様である。
脱炭素液体燃料としては、他にバイオ燃料が存在するが、バイオマス原料の不足が懸念されている。
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