カーボンニュートラルの実現に寄与する次世代技術として注目されている「カーボンリサイクル」。本連載ではこのカーボンリサイクルについて、欧米の先進事例を紹介しながら、日本の現状と今後の課題について解説する。初回の今回は、カーボンリサイクルの概要と、日本のカーボンニュートラル目標達成におけるその重要性について紹介する。
近年、地球温暖化が進み、世界各地で猛暑や洪水といった気象災害が頻繁に発生している。水資源問題、自然生態系の崩壊、人々の健康・生活や産業・経済における被害など、世界中で目に見える影響が出ており、世界各国で、その主要元凶であるCO2の排出量削減に向けた取り組みが本格化している。
こうした背景から、CO2排出量の削減に寄与する新しい技術の開発・活用が模索されている。そのなかの一つとして大きく注目されているのが、大気中のCO2の分離・回収・利用を意味する「カーボンリサイクル」だ。日本では、2020年10月政府発表の「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」において、カーボンリサイクルを「カーボンニュートラル社会を実現するためのキーテクノロジー」の一つと位置付けており、国家レベルで注目される非常に重要な新技術分野である。
本連載では、このカーボンリサイクルについて、欧米の先進事例を紹介しながら、日本の現状と今後の課題について3回にわたり解説していく。
カーボンリサイクルは、CO2を炭素資源(カーボン)として、大気から分離・回収し、回収したCO2をさまざまな産業(鉄鋼業や化学工業など)に再利用する取り組みである。
CCUSと混同しがちであるが、CCUSはCarbon dioxide Capture, Utilization and Storageの略で、CO2を分離・回収・貯留して他の用途に利用する技術の総称である。一方、カーボンリサイクルは、回収したCO2を別の物質(化学製品やバイオ燃料など)に転換して再利用する技術を指す。
ではなぜカーボンリサイクルが日本にとって重要な技術領域になるのか? この問いに答える前に、まずカーボンリサイクルを含めた、脱炭素化の取り組みの全体像と各国の取り組みの特徴を見てみよう。
図2のように、われわれは普段、多様なエネルギー(変換された電気エネルギーも含め)を使い、生活や生産・経済活動を行っている。それを簡潔にあらわせば、人やモノの移動として自動車、電車、船や飛行機などを使い、そしてモノの販売や消費を経て、廃棄物処理・リサイクルという流れだ。
このような一連のエネルギーの使われ方は、多くの国や地域で共通しているものといえる。その一方で、脱炭素化の取り組みの方法やそのインパクトは、国ごとに大きく異なる性質がある。これは、その国におけるエネルギー資源の有無や生産・消費などの特徴の違いに加え、エネルギー構成の事情や各産業におけるCO2排出量も異なるためだ。
例えば、中国やアメリカなど国土面積の広い国では再生可能エネルギー(太陽光発電、風力発電など)の規模が大きく、今後も開発ポテンシャルは十分にある。フランス、フィンランド、ポーランド、スウェーデンなどの欧州国では、原子力発電の規模が大きい。こうした国々においては、エネルギー開発のフェーズからグリーンエネルギーの活用が期待できる。
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