ETSを制度設計するにあたっては、表1や表2の違いのように、様々な項目で制度オプションが存在し得る。
まず、制度対象単位としては、EU-ETSでは原則「設備」が対象であるのに対して、K-ETSでは「設備」と「組織」の両方が対象とされている。K-ETSの場合、小規模な排出設備を複数保有する事業者も対象となるため、制度カバー率がEU-ETSと比べて高く、約7割となっている。
また、排出枠の割当方法やベースラインの設定方法には、上位グループの排出水準達成を求める「ベンチマーク方式(BM方式)」と、過去の排出実績等からの一定比率の改善を求める「グランドファザリング方式(GF方式)」が存在し、EU-ETSはBM方式、K-ETSは両者を併用している。
ETSは、取引無しの単純な排出総量規制と比べると、制度対象者間で排出枠を取引可能なことそれ自体が非常に柔軟な仕組みであると言えるが、各国のETSでは、各ETSで定める一定の期間内に、制度内の排出枠を用いて目標達成することを原則としながらも、より費用効率的な目標達成が可能となるよう、様々な「柔軟性措置」を設けている。
時間軸での柔軟性を与える代表例が、排出枠のバンキング(繰越し)や、ボローイング(前借り)であり、制度垣根の柔軟性を与える外部クレジットの利用などがある。現在GX-ETSでは、外部クレジットとしてJ-クレジットやJCMクレジットが使用可能である。
EU-ETSでは排出枠のバンキングを認めており、第2フェーズの排出枠を第4フェーズで使用することも可能である。これは、早い段階で大きな削減を行った事業者の努力が報われるため、早期削減インセンティブを与える効果もある。EU-ETSでは、第3フェーズまでは外部クレジットの利用も可能であったが、現在は使用できない。
ETSは制度対象総排出量に着目した制度であり、需給バランスにより排出枠の価格が変動することは元々想定しているが、ETS排出枠の市場価格が急騰・急落すると、制度対象事業者の事業活動ひいては国民生活に多大な影響を与え得るため、多くのETSで市場安定化措置を設けている。市場安定化措置は大きく分けて「価格的アプローチ」と「量的アプローチ」があり、急騰・急落の双方に対応できるようにしている。
EU-ETSでは排出量実績の低減に伴い、長期に渡り排出枠(アローワンス)の取引価格が低迷していたが、2008年以降、排出量実績がETS指令が設定する排出上限を下回ったため、2013年に「Backloading:排出枠の市場への放出を一部保留・先送りする措置」を導入したほか、2019年には「Market Stability Reserve:排出枠オークションの一部を予め保持し、必要に応じて市場に放出する制度」を導入した。
これらの措置による効果だけではないが、図4のように排出枠の価格は再び上昇することとなった。
なお、EU-ETSでは、欧州委員会から委託を受けて排出枠(EUA)のオークションを実施する一次市場のほか、その現物やデリバティブを取引する二次市場の取引も盛んである。今後日本でも、デリバティブを認めるか否かが一つの論点となる。
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