湧き水に浸けるだけで発電、産総研らが「湧水温度差発電システム」を開発自然エネルギー

産業技術総合研究所と茨城大学らの研究グループが、湧き水と大気の温度差を利用した「湧水温度差発電システム」を開発した。

» 2024年06月12日 07時00分 公開
[スマートジャパン]

 産業技術総合研究所(産総研)と茨城大学らの研究グループは2024年6月10日、湧き水と大気の温度差を利用した「湧水温度差発電」が可能なことを実証したと発表した。温度差を電力に変換する熱電発電システムを用い、湧水に浸すだけで発電することが可能だという。

 湧水の温度は、地表の気温変化の影響を受けにくく、昼夜、1年間を通してほぼ一定な性質を持ち、大気と湧水の間には自然な温度差がある。研究グループではこの温度差を利用して発電する、熱電発電の仕組みを採用した湧水温度差発電システムの開発に取り組んだ。熱電発電とは熱電素子に温度差を与えることで、熱エネルギーを電力に変換する効果を用いた発電方式だ。

 システムは片側を湧水に浸した円柱形の銅棒で、熱電モジュールのある表面まで熱の流れを導く仕組み。大気よりも湧水の温度が低い夏場には熱電モジュールの片面が冷却され、大気よりも湧水の温度が高い冬場には加熱される。つまり夏場には大気から湧水に熱エネルギーが流れ、冬場には湧水から大気に熱エネルギーが流れる。

湧水温度差発電の原理図 出典:産総研

 一方、熱電モジュールの反対面には、地表面付近の外気と効率的に熱交換が行われるようにヒートシンクを貼り付けた構造となっている。この装置では、湾曲できる柔軟な熱電モジュールを用いて、円柱形の銅棒と熱電モジュールを密着させることで、銅棒と熱電モジュール間の熱を伝わりやすくするよう工夫を行った。さらに、大気の熱を対流によりヒートシンクが効率的に受け取れるよう、ヒートシンクのフィンの向きを重力の方向に対して平行となるよう取り付けている。

(a) 開発した湧水温度差発電装置/ (b) 湧水温度差発電装置を上方から眺めた断面図と拡大図 出典:産総研

 システムの利用を想定した湧水と大気の温度差が小さい環境では、熱電モジュールの出力電圧は、数百mV程度であるため、温度記録計が動作する電圧までその出力電圧を昇圧するDC-DCコンバーターを導入。また、安定に給電できるように、キャパシターを熱電モジュールと組み合わせた。温度記録計には、液晶表示機能が付いたワイヤレス温度記録計(T&D TR42A)を用いた。

 実際にこのシステムを長野県松本市の水路に温度差発電装置を設置して発電実験を行った。実験エリアの湧水の温度は年間を通して約15℃とほぼ一定という条件だ。この条件下で2022年5月、2022年8月、2022年11月、2023年1月(2月)の異なる季節に発電試験を行ったところ、1日の発電量の平均値は、5月は3.1mW、8月は4.2mW、11月は1.1mW、1月は14.5mWだった。湧水と大気の温度が等しくなる期間を除くと、ワイヤレス温度記録計を年間通して安定に動作できる電力が得られた。特に、気温が氷点下となる1月が最も効率良く発電できた。また、夜間も温度差が生じるため、昼夜を問わず発電することができたという。

湧き水と大気の温度差が生み出す電力を温度記録計へ供給し、水路を流れる湧き水の温度を計測している様子 出典:産総研

 研究グループではこの他に発電した電力を温度記録計に給電する実験も実施した。ワイヤレス温度記録計には電池を搭載していないが、水路に装置を置くとキャパシターへの充電が始まり、所定の充電電圧に達すると起動し、水温を計測することに成功。測定データをスマートフォンにワイヤレスで送信することもできたという。

 湧き水の元である地下水の存在については、2014年に施行された水循環基本法において、国や地方公共団体に対し、健全な水循環の維持を目的とした地下水管理のための情報収集や解析、分析などの努力義務が課せられている。しかし地下水の保全や管理に対する予算や人員の確保が長年の課題とされており、研究グループでは今回開発したシステムを進化させ、水位や水質など他の項目も含めた電池レスの遠隔モニタリングシステムを確立したい考えだ。

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