産業用太陽光発電のセキュリティ問題――その背景と発電システムの実態連載:海外製パワコンは本当に危険なのか?(1)(1/2 ページ)

昨今、大きな話題となっている産業用太陽光発電システムのセキュリティ問題。はたしてその問題の本質はどこにあるのでしょうか。本連載ではこの太陽光発電のセキュリティ課題について、技術的・実務的な観点から検証していきます。

» 2025年07月04日 07時00分 公開

 最近、産業用太陽光発電システムのセキュリティリスクが大きく報道されています。特に「中国製の機器がサイバー攻撃の標的になる」「一斉に停電を引き起こされる能性がある」といった論調が目立ちます。

 しかし、この問題は本当に報道されているほど深刻なのでしょうか。本連載ではこのセキュリティに関する問題について、産業用太陽光発電業界に携わる立場から技術的・実務的な観点で検証していきたいと思います。

そもそも何が問題とされているのか?

 報道の論点を整理すると、主に以下のような懸念が示されています。

  • 1.海外製(特に中国製)の太陽光発電設備が、中国共産党の指示により一斉に制御される可能性
    • 中国の国家情報法により、中国企業は政府の要請に応じる義務がある
    • 悪意のある指示により機器が不正に操作される懸念
  • 2.機器に仕込まれた「バックドア」から、外部から不正に制御される危険性
    • 製造段階で隠し機能が組み込まれている可能性
    • 通常の検査では発見できない通信機能の存在
  • 3.大規模停電などの社会インフラへの影響
    • 太陽光発電が電力供給の一定割合を占める現在、その一斉停止は系統の不安定化を招く
    • 特に電力需要が少ない休日の昼間など、太陽光発電の比率が高い時間帯での攻撃により、予備率を超える電力不足が発生
    • 最悪の場合、連鎖的な大規模停電(ブラックアウト)につながる可能性

 これらの懸念は、一見すると非常に深刻な問題のように思えます。しかし、実際の産業用太陽光発電システムの仕組みを理解すると、違った見方ができるようになります。

産業用太陽光発電システムの基本構造

 まず、産業用太陽光発電システムがどのような構成になっているか、基本的な部分から説明します。システムは、大きく分けて以下の要素で構成されています。

  1. 太陽光パネル:太陽光を直流電力に変換
  2. PCS(パワーコンディショナー):直流を交流に変換する装置
  3. 通信機器(データロガー/スマートロガー):発電データの収集・送信
  4. 監視システム:遠隔からの監視・制御

 ここで重要なのは、PCS自体は基本的に電力変換装置であり、インターネット通信機能は別の通信機器が担当しているという点です。

 例えばHuawei社の場合は「SmartLogger」という通信機器、他社でも「データロガー」「通信ユニット」などと呼ばれる専用機器が、PCSから発電データを収集し、インターネット経由でクラウドサーバーに送信する役割を担っています。

なぜ通信機能が必要なのか?

 「そもそも、なぜ太陽光発電システムに通信機能が必要なの?」と思われる方もいるでしょう。実は現代の産業用太陽光発電においては、通信機能が必要不可欠な理由が大きく3つあります。

 1つ目が出力抑制への対応です。2015年以降、再生可能エネルギーの急速な普及に伴い、電力系統の安定性を保つための「出力抑制」が制度化されました。電力は需要と供給を常にバランスさせる必要があります。春や秋の休日など、電力需要が少ない時に太陽光発電が大量に発電すると供給過多となり、系統が不安定になる可能性があります。

 現在、こうした状況が予見される場合は、電力会社から太陽光などの再エネ発電事業者に対して「出力を抑制してください」という出力制御指示が発令される仕組みとなっています。この指示に対し、現地に行って手動で操作していては速やかな対応をすることはできません。そこで通信システムを経由した遠隔制御が必要になるというわけです。

 2つ目がモニタリングの重要性です。産業用太陽光発電所は、数千枚から数万枚のパネルで構成される大規模な設備です。これらが正常に動作しているか、常に監視する必要があります。膨大なパネルの稼働状況を、人力で毎日チェックすることは現実的ではありません。通信機能による自動監視が不可欠なのです。

 最後の3つ目が、メンテナンスの効率化です。太陽光発電所は山間部や遠隔地に設置されることも多く、何か異常があるたびに現地に駆けつけるのは大変です。遠隔での状態確認や簡単な操作ができることで、メンテナンスコストを大幅に削減できます。

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