太陽光発電のセキュリティ課題について、技術的・実務的な観点から検証していく本連載。最終回の今回は改めてこの問題の本質を考察し、産業用太陽光発電の健全な発展のために何が必要なのかを総括します。
これまで3回にわたって、産業用太陽光発電システムのセキュリティ問題について技術的な観点から検証してきました。最終回となる今回は、この問題の本質について考察するとともに、産業用太陽光発電の健全な発展のために何が必要なのかを総括したいと思います。
産業用太陽光発電における海外製機器の使用は、今に始まったことではありません。FIT制度が始まった2012年頃から、すでに海外製品は広く使われていました。では、なぜ今になってセキュリティリスクが大きく報道されるようになったのでしょうか。
まず考えられるのが「技術的な環境の変化」です。昨今、IoT(Internet of Things)化が進み、多くの機器がネットワークに接続されるのが当たり前となってきました。これは同時にサイバー攻撃のリスクが増えることにもなり、実際のインシデントが増えていることも相まって、社会のセキュリティに対する関心の高まりにつながっていると考えれられます。
また、太陽光発電については、導入量が急増したことで電力系統への影響力が大きくなり、これまで以上に重要な電力インフラとして扱われるようになってきたという点も影響していると考えられます。
ただし、こうした背景があるのは事実ですが、だからといって「突然危険になった」わけではありません。
別の観点として考えられるのが、政治的・経済的背景の変化です。その筆頭ともいえるのが、米中対立の激化でしょう。技術覇権をめぐる国際競争が加速し、経済安全保障の観点から重要産業や技術に対し、規制を強化する動きが広がりました。米国が日本を含む同盟国に対し、中国製の通信機器やインフラ設備の排除を求めるよう呼びかけていたのは、記憶に新しいところです。
また、日本市場において海外企業がシェアを拡大していることを背景に、“日本製であれば大丈夫”という、国産回帰の立場からの論調も見受けられます。こうした技術的リスクと政治的・経済的背景が組み合わさったトピックは、センセーショナルに伝えやすいという面もあり、大きく報道されるケースが増えているのではないかと感じています。
こうした太陽光発電のセキュリティ問題に関する議論や報道において、何よりも重要だと感じるのが、「技術的な問題と政治的な問題を明確に切り分ける」ことです。これまでの連載で明らかにしたように、
これらは、冷静な技術的分析に基づく事実です。
一方で、「特定の国の製品は使うべきではない」「国産品で統一すべきだ」「経済安全保障上のリスクがある」といった議論は、技術的というより政治的な性質を持っています。これらの議論自体を否定するつもりはありませんが、技術的な事実と混同してはいけません。
「それなら日本製の機器に変えれば解決するのでは?」という意見もあるでしょう。しかし、この考え方には大きな問題があります。
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