その機器をインターネットに接続する以上、セキュリティリスクは製造国に関わらず存在します。日本製だからといって、サイバー攻撃を受けないわけではありません。実際、日本の大手企業でもサイバー攻撃による情報流出事件は頻繁に起きています。
例えば、2024年5月にはコンテック社の太陽光発電施設向け遠隔監視機器がサイバー攻撃を受け、不正送金に悪用されていたことが明らかになりました。これは製造国の問題ではなく、セキュリティ対策の問題です。
また、発電所を運営する現場の目線で考えれば、現在の日本市場で必要とされる太陽光発電機器を、すべて国内メーカー製でまかなうことは現実的に不可能です。現在の国内メーカーの生産規模や供給力では、急な需要増には対応できないというのが現実です。海外メーカーと比較して価格が高くなるケースも多く、これは発電コストの大幅な上昇に直結します。こうしたコスト増は最終的に電気料金に反映され、国民負担の増加につながります。
さらに技術面でも懸念があります。残念ながら、一部の分野では海外メーカーの方が技術的に先行しているケースも多く、より高度かつ効率的な発電所の運営を考えた場合、海外製品を採用する方が合理的という場面が多々あります。実際に、いまでは当たり前になりつつある出力抑制のオンライン制御対応なども、海外メーカーの方が機能実装は早かったという事実があります。
こうした実情があるなかで、太陽光発電のセキュリティ対策はどのように進めて行けば良いのでしょうか。筆者は以下のようなアプローチが必要だと考えています。
理想的には、機器の導入前に電波暗室で隠し通信機能の有無を検査することが望ましいでしょう。しかし、現実的には以下の課題があります。
こうしたハードウェア面だけでなく、定期的に発生するファームウェアアップデートの内容を解析し、ソフトウェアに不審な機能が追加されていないか確認することも重要です。これは発電所にある現地の機器そのものではなく、メーカーから提供されるファームウェアファイルを専門機関で解析するという形になると考えられます。
技術的な対策だけでなく、事業者自身のセキュリティ意識を高めることが不可欠です。基本的なセキュリティ対策の徹底、社外の専門家との連携、そして継続的なセキュリティ教育と定期的な訓練の実施なども重要なポイントです。
エネルギーインフラのサイバーセキュリティは国境を越えた共通の課題です。一国だけで解決しようとするのではなく、国際的な協調が必要です。セキュリティ基準の国際標準化や相互認証制度の確立、また情報共有の枠組みを構築するといった取り組みの推進が求められます。
最後に、産業用太陽光発電事業者の皆様への具体的な提言をまとめます。
4回にわたって産業用太陽光発電のセキュリティ問題を検証してきました。技術的な分析により明らかになったのは、「海外製だから危険」「国産なら安全」という単純な図式は成り立たないということです。重要なのは、製造国ではなく、適切なセキュリティ対策を講じることです。
再生可能エネルギーは、私たちの未来のエネルギーです。政治的な思惑や根拠のない不安に振り回されることなく、技術的な事実に基づいた冷静な判断により、その健全な発展を支えていく必要があります。
本連載が、皆様の事業運営の一助となれば幸いです。
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