【緊急寄稿】「離着陸時もスマホ使用を許可」の背景は?:秋本俊二の“飛行機と空と旅”の話(3/3 ページ)
米連邦航空局(FAA)は10月31日、離着陸時でもスマートフォンなどの電子機器の使用を認める規制緩和案を発表した。これまで一貫して出発時や到着時に「電源オフ」を求めてきたのを一転、利用を許可した背景には、何があるのか?
Wi-Fi接続サービスを普及させたい航空各社
私の意見としては、前述した状況から「携帯電話は実際には問題ないのだろう」という思いが強かった。電源を切り忘れた携帯電話が原因でトラブルが生じたという報告もこれまで聞いたことがない。だから使用を許可せよと単純に提言しているわけではもちろんなく、以前から賛否両論があった以上、もっと早くにきちんとした実験データなどに基づく議論が必要だったと言いたいのだ。そしてもし本当に旅客機の運航の妨げになるのであれば、その事実を徹底周知して安全を守るべきではないか。
今回、FAAは「委託した委員による安全性の調査の結果、多くの商用航空機が電波の干渉を受けないとの結論に至った」と発表した。調査にようやく重い腰をあげた背景には、スマホやタブレットの急速な普及と、無線LAN対応端末を対象とした機内でのWi-Fi接続サービスをエアライン各社が今後の有料サービスの柱のひとつにしようとしていることが背景にある。
機内でWi-Fiが使えるようになっても、従来どおりPCやスマホ、タブレットなどの電子機器を上空で水平飛行に移ってからしか使用できないとなると、サービスの利用率はあまり上がらない。それが搭乗機が目的地の空港に向かって高度を下げ始めたときでも利用可となれば、例えば機内から地上へこんなメールが飛び交うようになるだろう。
「いま機長から最終のアナウンスがあった。予定より10分早く到着するって。なので、ロビーの出口付近にクルマを止めて待っていて」
FAAの規制緩和案の運用はエアライン会社の判断に委ねられているが、デルタ航空などは離着陸時にスマホやタブレットを機内モードに設定することを条件に使用を許可する運用計画をすでにFAAに提出。機内でのWi-Fi接続サービスは現在、国際長距離路線でも拡大しつつあり、日本の国土交通省も早々にFAAの規制緩和に追随することは間違いない。
ところで、そうなるともうひとつ問題になりそうなのが、離着陸時のデジタルカメラによる写真撮影だ。機窓からの写真は、ほとんど雲しか写らない上空よりも、街の様子をちょうどいい具合に俯瞰(ふかん)できる離陸時や着陸時がシャッターチャンス。規制緩和により、スマホなどの使用とともに当然、デジカメの使用も許可になるだろう。しかしそうなると、座席の背もたれを起こしてシートベルトをしっかり着用しなければいかない時間帯に、今度はシートベルトをそっと外して写真撮影に興じる乗客も出てくるのではないか? エアライン各社は今後、そんな写真マニアたちの行動にも頭を悩ませることになりそうだ。
著者プロフィール:秋本俊二
作家/航空ジャーナリスト。東京都出身。学生時代に航空工学を専攻後、数回の海外生活を経て取材・文筆活動をスタート。世界の空を旅しながら各メディアにリポートやエッセイを発表するほか、テレビ・ラジオのコメンテーターとしても活動。
著書に『ボーイング787まるごと解説』『ボーイング777機長まるごと体験』『みんなが知りたい旅客機の疑問50』『もっと知りたい旅客機の疑問50』『みんなが知りたい空港の疑問50』『エアバスA380まるごと解説』(以上ソフトバンククリエイティブ/サイエンスアイ新書)、『新いますぐ飛行機に乗りたくなる本』(NNA)など。
Blog『雲の上の書斎から』は多くの旅行ファン、航空ファンのほかエアライン関係者やマスコミ関係者にも支持を集めている。
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