コラム
» 2006年09月08日 16時00分 UPDATE

ネットベンチャー3.0【第7回】:楽天はなぜWeb2.0のプラットフォームになれないのか(下) (1/3)

佐々木俊尚氏が日本のベンチャーにおけるWeb2.0ビジネス最前線を描く連載企画。Web2.0視点から楽天市場の問題点を分析しつつ、巨大Web2.0企業への変化の可能性を探る。

[佐々木俊尚,ITmedia]

前回より続く

楽天のもくろみ通りだったビジネスモデルの転換

 楽天が当初から打ち出した「ショッピングモール出店料の固定料金制」というビジネスモデルは、しかし内在する危険をはらんでいた。当初から原価割れを承知の上で、かなり無理な価格設定をしていたからだ。それでも資金繰りに困らなかったのは、出店料を6カ月前払いという仕組みにしたからだった。1店で30万円。30社の出店があれば、900万円の現金を手にすることができる。売り上げは低くても、当面の資金に困ることはないという計算で、これが功を奏した。

 だが徐々に出店数が増え、商品の流通数がうなぎ上りに巨大化していくのに従って、固定料金制には軋みが生じ始めた。システム運営費用が巨額になり、出店しているショッピングサイトが儲かれば儲かるほど、楽天本体は利益率が落ち込んでいってしまうからである。実際、2001年ごろには店舗数の増加率が停滞気味になり、固定料金の売り上げは増えずに、流通総額だけが増えていくという悪循環に陥りかけていた。

 ここで楽天は、思い切った打開策に打って出た。市場を制覇した段階で従量制に以降し、100万円を超える売上高がある店については、売上高の2〜3%をシステム料として徴収する制度に変更したのである。2002年春のことだった。もっともこの値上げは泥縄式に行われたわけではなく、当初からの楽天のもくろみでもあった。当時、三木谷浩史会長兼社長は私の取材にこう語っている。「従量制への移行は、もっと早い段階で実施するつもりだった。だが店舗からの離反を恐れ、決断が遅れているうちに、売れば売るほど赤字になるという不健康な状態になっていた。たとえ店が10店舗に減ってしまっても構わない、そんな不退転の決意で従量制移行を決断した」

 この従量制以降に対しては、各地の店舗から激しい反発が巻き起こった。経済誌にも「大ブーイングを浴びる三木谷社長」「店舗の脱退が続出する可能性が高い」といった批判が躍った。三木谷社長自身もこの時のことについて、「袋だたき状態だった。アナリストもみんな無理だと分析していた」と後に私に話している。しかし蓋を開けてみると、従量制以降は大きな離反は生まなかった。当時出店していた約5000店舗のうち、料金制度を理由に楽天との契約を解消したのはわずか30店舗程度だったのだ。

 この大転換がうまくいった理由は何だったのだろうか。その理由はただひとつしかない。EC市場における楽天の市場支配力が圧倒的で、出店する小売店から見れば、他のモールに移転したり、自力で広告宣伝を行うよりも、楽天にとどまる方がずっと巨大な集客を期待できたからだった。つまりは「市場を制覇した後、収穫に入る」というネットワーク外部性の法則を楽天は忠実に実行したわけで、そのもくろみ通りの結果になったのだった。

楽天に忍び寄るWeb2.0の環境変化

 現在もなお楽天の市場支配力は強固で、揺るぎはないように見える。実際、8月に発表された2006年度第2四半期の決算でも高成長は持続していて、EC事業の売上高は前年同期比76.4%増、経常利益は同じく70.6%となっている。これらの状況だけを見れば、楽天はEC市場においてプラットフォームとなることに成功したようにも見える。つまりGoogleが検索エンジンをプラットフォーム化し、AppleのiPodがモバイルメディアのプラットフォームとなったように、楽天もECのプラットフォームとなっているという見方だ。

 しかしその背後では、ECを取り巻く環境変化が徐々に起きている。最大の要因は、Web2.0という新たなパラダイムの出現である。つまりは検索エンジンのインフラ化と、それに伴う検索エコノミーの出現ということだ。かつては単なるポータルのオマケサービス、情報収集のためのツールでしかなかった検索エンジンは、Googleという秀逸なアルゴリズムを持つプレーヤーが登場したことで大きく変容し、2002年ごろから徐々にインターネットの「ナビゲーター」として利用されるようになった。つまり検索エンジンを情報収集だけに使うのでなく、「ヤフー」「2ちゃんねる」「液晶テレビ 送料」などといった検索キーワードを入力することで、ただその場所(ウェブサイト、あるいは買い物する場所)に行くためだけのナビゲーションとして利用する人が増えていったのである。

 ポータルと検索は、ナビゲーションの方法が根本的に異なっている。検索エンジンでのナビゲーションが、検索キーワードの入力という「一発型」だとすれば、ポータルではたとえばトップページから「買い物」「家電」「液晶テレビ」と順にメニューをたどっていくように、「階層型」のナビゲーションである。

 アテンションエコノミー(注目経済)の観点から見れば、階層型のポータルと一発型の検索の争いも、しょせんはアテンションの取り合いである。ウェブの世界のナビゲーションを検索エンジンによって行う人が増えていけば、当然のようにポータルの存在感は薄らいでいく。

 もちろん、日本では現在もなおヤフーや楽天の市場支配が圧倒的に強く、ポータル優位のまま推移しており、階層型のナビゲーションを行っている人は非常に多い。だが中小企業を中心とした広告主から見れば、ポータルのバナーに広告を出すよりも、検索マーケティングを行う方が圧倒的にコストパフォーマンスが高く、検索のこのコストパフォーマンスの優位性は今後も揺るがないであろうことを考えれば、アテンションはやはり検索へとシフトしていくであろうことは間違いないと言える。そうなれば楽天が持っているECポータル(ショッピングモール)としての優位性は、やはり薄らいでいくと言わざるを得ない。

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