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楽天はなぜWeb2.0のプラットフォームになれないのか(下)ネットベンチャー3.0【第7回】(3/3 ページ)

» 2006年09月08日 16時00分 公開
[佐々木俊尚,ITmedia]
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楽天に欠けているもの

 しかしそうしたポータルの考え方には、決定的に欠如しているものがある。そうやってかき集めたさまざまなサービスを、どう有機的に結びつけていくのかという三次元的な思考に欠けているのだ。つまり「ジグソーパズルのピースそれぞれが、相互にどうつながっていくのか」という考え方である。

 たとえば楽天市場には、5万以上の店舗が集まっている。それらの集合体は圧倒的なロングテールというべきものだ。ところが楽天では、これらの店をどう評価し、消費者とどう連携させていくのかという視点が弱い。楽天の中ではどちらかといえば商品を軸にしてユーザーを誘導する仕組みが強化されており、その結果、ユーザーの側も「製品を比較する」ボタンで商品を決定した上で、「価格を比較」ボタンによって価格の安いところから購入する――といったナビゲーションが中心になっている。もちろん「みんなの買い物レビュー」というクチコミ評価機能も実装され、相当な数の書き込みが行われているのも事実だが、しかし戦略の中心にあるのは「楽天がいかに数多くの商品を揃え、それらを安価に販売しているか」とユーザーに印象づけるところにあるように思える。

 それは私のサイトに対する印象にすぎないかもしれないが、しかし楽天は安売りを前面に出したキャンペーンを仕掛けており、その印象を裏付けている。たとえば日経産業新聞の『楽天好調「市場」に死角?――6月、経常益82%増、中間期最高』という記事では、楽天の安売り商法が以下のように紹介されている。

今年に入って目立つのがポイント還元と安さの訴求だ。楽天市場では購入額の一%をポイントとして利用者に還元。一ポイント一円として、サイト上で買い物などに利用できる。五月には購入額の多い利用者を「プラチナ会員」と呼ぶ制度を導入。一般の利用者の数倍のポイントを提供するなど、大口利用者の囲い込みを加速させてきた。

 一方で家電製品を対象に「最安値設定キャンペーン」と呼ぶ仕掛けを導入。出店店舗に他のネット通販や家電量販店よりも安い価格を打ち出すよう協力を呼び掛けた。“格安”を呼び水に新規顧客を集め、手厚いポイント付与で再度の利用につなげる戦略だ。

 楽天の思惑通り、店舗全体の売上高は伸びた。だが出店者側から見ると単純には喜べない。売上高の数%をシステム利用料として楽天に支払ったうえで安さを追求すれば、利幅は小さくなる。(2006年8月21日、日経産業新聞)

 価格で勝負するショッピングモールを構築することは、最終的にはプラットフォームの優位性を弱めてしまうという危険性をはらんでいる。消費者はそこに安い価格ばかりを求めるようになり、ショップの側は消耗戦を強いられる。「価格が安い」順にショップのリストを並べ替えられる楽天市場の機能は、ますますその傾向を強めさせ、ショップは「売れ筋の商品をいかに安く提供するか」という方向に傾きがちになる。実際、最近の楽天市場に対しては「どの店も同じような売れ筋商品を並べている」「商品のラインアップが意外と少ない」というユーザーからの不満も少なくない。

楽天市場の可能性

 楽天市場は本来、莫大な数のショップと商品が集まるロングテール市場になりうる潜在力がある。だがこれではロングテールになりようがない。本来、この巨大なECプラットフォームという場所では、それぞれのショップがどのように人々から評価され、それらがどのようなオンリーワンモデルを持っているのかという情報を、製品カットと店舗カットの双方から縦横無尽に切り出すことが可能で、そしてその切り出されたものがビジュアルイメージとして(ソーシャルブックマークのように)サイト上に表出されるべきではないか。そうであってこそ、小規模なショップのロングテールは成り立つし、プラットフォームとの間でWin-Winの関係を保つことができるようになる。現在のようにショップの側が「楽天から収奪されている」という印象を持ってしまうようでは、Web2.0のプラットフォームになることはできない。

 逆に言えば、こうした展開を楽天が今後行っていくことができれば、楽天は巨大なWeb2.0企業になりうる可能性を秘めている。なにしろその莫大な数のショップと商品数、そしてそこに集まってきた莫大な数のユーザー、さらには彼らによって蓄積されている「みんなの買い物レビュー」やブログなどのCGMコンテンツの量は凄まじい。極大化されたデータベースはもうすでにそこに存在しているわけだから、このデータベースをうまく活用すれば、現在のスケールを維持しながら、そのまま最先端のWeb2.0企業に転換していくことは十分に可能ではないかと思えるのだ。

(毎週金曜日に掲載します)

佐々木俊尚氏のプロフィール

1961年12月5日、兵庫県西脇市生まれ。愛知県立岡崎高校卒、早稲田大政経学部政治学科中退。1988年、毎日新聞社入社。岐阜支局、中部報道部(名古屋)を経て、東京本社社会部。警視庁捜査一課、遊軍などを担当し、殺人や誘拐、海外テロ、オウム真理教事件などの取材に当たる。1999年にアスキーに移籍し、月刊アスキー編集部デスク。2003年からフリージャーナリスト。主にIT分野を取材している。

著書:「徹底追及 個人情報流出事件」(秀和システム)、「ヒルズな人たち」(小学館)、「ライブドア資本論」(日本評論社)、「検索エンジン戦争」(アスペクト)、「ネット業界ハンドブック」(東洋経済新報社)、「グーグルGoogle 既存のビジネスを破壊する」(文春新書)、「検索エンジンがとびっきりの客を連れてきた!」(ソフトバンククリエイティブ)など。


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