ITmedia NEWS >

Apple vs. Dell――サポートとイノベーションに失敗したとき

» 2006年09月19日 16時27分 公開
[David Morgenstern,eWEEK]
eWEEK

 スーパーブランドはどれくらいの間勝ち続け、勢いを維持できるのだろうか? Apple Computerはその答えをこの四半期に見出すことになる――最近リリースしたMacBookがランダムにシャットダウンする問題に、ユーザーからの苦情が増えているからだ。

 しかし、今回のAppleの反応と顧客の期待を、最近のDellのリコール作業と比較してみるといいかもしれない。

 Appleは今年5月、エントリーレベルのノートPCMacBookをリリースした。卒業祝いのシーズンに先駆け、また9月の新学期に向けて夏の間十分に需要に応えられるタイミングでの発売だった。

 しかしその直後、この新モデルを稼働させるとかなり「熱く」なることが明らかになった。Mac系IT管理者を中心とするMac愛好者サイトMacInTouchで5月下旬から6月上旬にかけて掲載された投稿では、キーボードから放熱しているとの指摘が上がった。

 その後MacBookがランダムにシャットダウンするという報告が寄せられた。Appleのサポート用ディスカッションフォーラムには苦情スレッドが増え続け、同時にその原因と解決策についてさまざまな意見が示された。

 原因はRAMだという指摘がなされたり、プロセッサ上のヒートシンクだという意見もあった。ファームウェアだとする声も上がった。問題はバッテリーだとするユーザーもいた――リコールがかかったのはMacBook Proで、しかもMacBook Proの一部のモデルの一部のバッテリーではあったが。

 その間、Web上ではランダムシャットダウンに関する苦情が増えていった。この問題の最新情報を求めている人々のためにバーチャルサポートグループが形成された。

 今回の問題が顧客に与えた苦痛にかかわらず、わたし自身はAppleのテクニカルサポートに同情的だ。さまざまな異なる原因による可能性が高いこうした問題は、分析が最も困難なケースの1つだからだ。

 例えば放熱問題があれば、コンポーネントやロジックボードの一部に影響を及ぼす可能性がある。このような影響は時間の経過とともに起き、部品の一部を劣化させ、支障を生じさせる。

 いったい根本原因は何だったのだろうか? これもまた判断しにくい問題だ。このため十分な情報提供ができないと、顧客はそれを「お粗末なサポートおよびサービス」ととらえるようになる。

 現在Appleは問題のマシンを修理のために同社に送り返すよう顧客に呼び掛けている(日本の場合は「サポートサービスの窓口として AppleCare あるいはアップル正規サービスプロバイダまでご連絡ください。」と表示される)。Apple側はこれを通じてテスト用サンプルを集めることができる。

 新しい部品が必要な場合もあれば、どうにもならない場合もあるだろう。運営側であるAppleにとっては、大変な作業だ。

 4人のMacBookユーザーと話をしたところ、2人はまったく問題がなく、1人はロジックボードが完全に故障し、1週間後に新しいマシンを受け取ったという。

 4人目のユーザーは、シャットダウンの問題がかなり深刻で、マシンを2回ショップに持ち込み、その都度技術者に直ったと言われた。現在3回目の持ち込みで、修理を待っているが5日間の預かり期間も延長されている状態だという。

 これらは無作為のサンプリングとは言え、厄介な問題だ。しかし、皆さんにとってはあくまでもほんの一例にすぎない。ほんの少数サンプルなのだから。

 それでもAppleは絶大な信頼を得ているブランドだ。しかし皮肉なことにこの素晴らしい評価が、かえって顧客の反応を強めているのかもしれない。彼らは高品質を期待し、要求する。そして、それが提供されないとき、大きな怒りをぶつけるのだ。

 Apple自身も、これまでほかのPCメーカーよりも「親切で優しい企業」として売り込んできた。顧客はそのメッセージを自分のものとしており、何かが非常に誤った方向に進んだとき、裏切られた感情を抱くようになる。

 ここでDellを見てみよう。同社のイノベーションとサポートの欠如に対する顧客の不満がとうとう噴出した。同社はコストを削減し続け、その結果イノベーションと品質を維持できない状態に陥っていた。

 Dellのハードウェアと顧客サービスに関する過去の問題を取り上げるWebサイトは多くあり、中には悪態をつくタイトルのサイトもある。

 Dellは、ようやく対処しなければならない問題があることを認めた。同社幹部は9月13日、数百万ドルを投じて粗悪なサポートプログラムの改善と製品設計の強化に乗り出すと宣言した

 Dellのケビン・ロリンズCEOは、ニューヨークで開催されたプレスイベントで、サービスおよびサポートについて「これまでの当社は完ぺきとは言えなかったことは分かっている」と述べた。「Dell体験は当社の第一の優先事項だ。今年はこの問題に投資し、長期的には文句なしに最高の顧客体験を提供する」

 成功を祈る。Dellブランドの輝きを取り戻すまでには、今後数回以上の記者会見を要するだろう。

 さて、Dellの顧客ベースにはまだ何らかの「信頼」が残っているだろうか? これまではWebと広告を通じてだけ顧客に接する「クール」な企業を貫いてきた。これこそが彼らのビジネスモデルだった。

 Appleのエンジニアリングは、どういうわけかMacBookで間違いを犯してしまったのかもしれない。あるいは、この問題の原因が一部の部品にあると判明するかもしれない。

 しかしイノベーションとサポートで得た業界ナンバーワンの評判を守り抜こうと問題に取り組んでいる今の段階なら、まださほど心配することはないだろう。忠誠心の高い顧客ベースで何年もかけて蓄積してきた信頼は厚く、今回はそれを多少犠牲にするだけで済む。

 一方Dellは、深い穴底から、ようやく登り始めたところだ。

 信頼されるブランドを構築するには長い時間が必要だ。今回ノートPC問題をAppleがどう処理するかによって、このようなブランドが朽ちるのにどれくらい時間がかかるかを、わたしたちは目撃することになるかもしれない。

Editorial items that were originally published in the U.S. Edition of “eWEEK” are the copyrighted property of Ziff Davis Enterprise Inc. Copyright (c) 2011. All Rights Reserved.