コラム
» 2006年10月02日 10時00分 UPDATE

金融・経済コラム:ソフトバンクの携帯事業証券化:他のIT・ネット企業のM&A戦略に与える影響

ソフトバンクは先週、ボーダフォン買収時に設定した1兆数千億円の巨額ローンを借り換えると発表しました。借り換え資金は携帯電話事業を証券化して調達します。今回はこの仕組みと業界への影響について説明しましょう。

[保田隆明,ITmedia]

 先週、ソフトバンクの株価は右肩上がりでした。9月26日に一部新聞にて携帯事業証券化による資金調達の記事が掲載され、29日にソフトバンクが正式発表しました(関連記事)(ソフトバンクのリリース)。資金調達金額は1.45兆円の予定です。調達した資金は、今年の4月末に完了したボーダフォン日本法人の買収の時に調達したローンの借り換えに充当されるとのことです(関連記事)

 通常、企業は、会社としてお金を借りて、会社としてお金を返済します。例えばA、B、Cの3つの事業を抱えている企業の場合、借りたお金はA、B、Cのどの事業のために使ってもいいですし、返済の場合もA、B、C3つの事業の収益、キャッシュフローの合計の結果として返済していきます。

 しかし、証券化による資金調達を行う場合は、お金を貸す側は、ある特定の事業の収益、キャッシュフローだけを評価して、その特定の事業の収益、キャッシュフローでローンの返済がなされることという条件のもと、お金を貸します。

 具体的な例では、都内の一等地にビルを保有している企業が存在したとします。都内の一等地であれば、ビルの入居率は高いでしょうし、ビルの賃料も今後大きく値下がることもないでしょう。つまり、将来の収益、キャッシュフローが見込みやすいのです。そこで、そのビルからの収益、キャッシュフローでお金を返済するという条件をつけてお金を借りる手法が証券化です。このビルを保有する企業の本業が食品業だったとした場合、証券化をする前まではビルの収益、キャッシュフローは自社の本業のために使うことができましたが、証券化後は、そのビルの収益、キャッシュフローは証券化で調達したローンの返済のために使う必要があり、本業のために使うことはできません。

 事業証券化と従来からある純粋な証券化の違いの詳細は割愛しますが、単純化しますと携帯事業の証券化により1.45兆円が調達できるということは、携帯事業から生み出される収益のみで1.45兆円の返済が可能だろう、とローンを提供する銀行が判断したということになります。

 さて、ボーダフォン買収発表後のソフトバンクへの株式市場での評価はマイナス面の方が大きく株価は下げ基調でした。借入金の金額が大きかったこと、そして、携帯事業の成長戦略の不透明感が大きかったことがその理由です。しかし、今回の証券化により、携帯事業証券化に際してローンを提供する銀行団は、1.45兆円の返済が「ぽしゃる」可能性は非常に低いと見ていることになります。それが安心材料となって株価が上がっていったわけです。また、証券化を行うことによって、資金調達コスト(ローンの利息)がグンと低くなることも買い材料の大きなものでした。

 どうして資金調達コストが下がるかというと、ソフトバンクという会社にお金を貸す場合は、同社が抱えるいろんな事業全部に対してのリスクを負うということになります。つまり、どれかの事業が大損を出すと、ローンの返済が滞りかねません。しかし、携帯事業の証券化の場合であれば、携帯事業から発生する収益、キャッシュフローからローンの返済が行われます。ソフトバンクのほかの事業で大赤字を出していたとしても、携帯事業のキャッシュフローがそれらの赤字補填に回ることはなく、優先的に証券化ローンの返済に充てられます。これにより、証券化の際のローンの利率が低くなります。

 ローンの利息が減れば会社の利益は増えますので、株価にはプラスのインパクトということでした。

 証券化による資金調達の場合は、将来の安定的な収益、キャッシュフローが見込めるかどうかという点が一番重要です。携帯事業であれば、総務省からの免許が必要な事業ですので、参入障壁が比較的高く、しばらくは少数での競争が予想されます。また、携帯電話に代替するコミュニケーション手段は簡単には出てこないでしょうし、利用者が携帯電話に飽きるということもあまりないでしょう。その意味では、今後携帯利用者数が激減することも想像しづらく、比較的安定的な収益が見込めることになります。

 一方、通常のIT・インターネット事業では、携帯事業ほどに参入障壁が高いものは存在しません。むしろ、参入障壁は他の業界に比べても低い状態です。また、次から次へと新しい代替サービスが登場するのもこのIT・インターネット業界の特徴だと思います。したがって、一般的には将来の安定的な収益を見込むことが難しい業界ですので、今回ソフトバンクが活用した事業証券化を絡めた企業買収を行える可能性は大きくないと思います。しかし、最近ではIT・インターネット企業も、業界外の事業を買収したいという場合も少なくありませんので、買収したい事業が安定的な収益を稼ぎ出すのであれば、多少買収金額の絶対額が高くとも今回のソフトバンクの手法を参考にすることができると思われます。

 去年は、ライブドアがLBO(Leveraged Buy-Out)によるフジテレビの買収を検討していた時期がありました。あの時も、自分たちより大きな企業をどうやって買収できるんだという声もありましたが、テレビ局は参入障壁が高く安定的な収益が見込めるので、テレビ業に対してはローンを調達することが可能だろうということで検討されていました。

IT・インターネット企業経営者の間では引き続きM&Aが事業拡大の1つの手法として捕らえられていますが、最近の低迷する新興市場の影響で、株式交換を行うにも発行する株数が以前より増えてしまったので、以前ほどにはM&Aがやりやすい環境ではありません。また、ソフトバンクによる携帯事業買収後の株価を見ていた限りでは、「やはりあまり大きな事業を借入金で買収するのはリスクが高いな……」と思っていたでしょう。しかし、先週の事業証券化による資金調達による株価の上昇基調を見て、M&A意欲が復活するかもしれません。

保田隆明氏のプロフィール

リーマン・ブラザーズ証券、UBS証券にてM&Aアドバイザリー、資金調達案件を担当。2004年春にソーシャルネットワーキングサイト運営会社を起業。同事業譲渡後、ベンチャーキャピタル業に従事。2006年1月よりワクワク経済研究所LLP代表パートナー。現在は、テレビなど各種メディアで株式・経済・金融に関するコメンテーターとして活動。著書:『図解 株式市場とM&A』(翔泳社)、『恋する株式投資入門』(青春出版社)、『投資事業組合とは何か』(共著:ダイヤモンド社)、『投資銀行青春白書』(ダイヤモンド社)。ブログはhttp://wkwk.tv/chou/


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