コラム
» 2007年08月31日 09時00分 UPDATE

科学なニュースとニュースの科学:巨大ブラックホール発見 〜X線で宇宙を探る

NASAとJAXAがそれぞれ打ち上げた、宇宙からのX線を調べる衛星の観測結果から、日本の大学とNASAが共同でこれまで知られていなかった巨大ブラックホールを発見しました。

[堺三保,ITmedia]

 7月末、京大・愛媛大・NASAの国際共同チームが、NASAのX線天文衛星「スウィフト」と、日本のX線天文衛星「すざく」の観測結果から、「一見、ふつうに見える銀河」の中心に、今までに知られていなかった“ニュータイプ”の巨大ブラックホールが存在することを発見、宇宙には今までの観測では見逃されていたような「完全に隠された」明るいブラックホールがたくさん潜んでいる可能性があると発表した

 というのはどういうことかという話をする前に、まずは「X線天文衛星って何?」というところから話を始めるべきだよね。わたしたちがよく知っている望遠鏡というと、ハワイにある「すばる」とか、宇宙に浮かんでる「ハッブル」といった、いわゆる「光学式望遠鏡」だと思う。まあ、基本的には、でっかいレンズで遠くのものを拡大して見てるわけですよ。

 この光学式望遠鏡で見てるものというのは、わたしたちが普段、自分の目で見ているもの、つまり「可視光」と言われてる光なんだよね。

 でも、この「可視光」というのは、実は赤外線や紫外線、X線、さらには通信に使われてる無線電波なんかと同じ「電磁波」の一種だってことは、確か誰もが、中学あたりの理科で勉強した覚えがあるはず。

 それぞれの電磁波の違いは、波が1回繰り返す長さ、つまり「波長」なんだよね。波長が長い方から短い方に、順に「電波」>「赤外線」>「可視光」>「紫外線」>「X線」>「ガンマ線」てな感じに分類されてたりするのだ。

イラスト

 さて、「電波」も「可視光」も「X線」も、どれも同じ「電磁波」だとすれば、「可視光」の代わりに、他の「電磁波」を使って宇宙を眺めてみれば、どんなふうに見えるんだろう? もしかしたら、可視光じゃ見えなかったものだって見えてくるかもしれないよね。

 まあ、「見える」っていう言い方はおかしいかもしれないけど、要は「可視光」以外の電磁波が、どんなふうに分布してるか調べたら、可視光で見てるのとは違う宇宙の姿が分かるんじゃないかってこと。

 ってなわけで作られたのが「電波望遠鏡」や「X線望遠鏡」といった、非光学式の望遠鏡なのだ。でもって、「スウィフト」や「すざく」っていうのは、その「X線望遠鏡」を搭載した人工衛星ってわけ。

 でもって、このX線望遠鏡で、宇宙から飛来するX線を観測して分かることの1つに、ブラックホールの存在を発見する、ってのがあるわけですよ(ああ、やっと今回のお題にたどり着いたぞ)。

 ブラックホールってのは、光だろうが何だろうが吸い込んじゃうわけだから、基本的には直接見ることはできない。でも、ブラックホールが物質を吸い込んだとき、その副次的な効果としてX線が放射されることがある。

 というわけで、X線望遠鏡を使ってX線を観測することで、ブラックホールを見つけることができるのだ。

 ところが、このX線というのもくせ者で、波長が長いものは、途中に物質があると完全に吸収されちゃって、望遠鏡まで届かなかったりするんだとか。だから、波長が短い(ということは、エネルギー量が高くて、物質を透過する力が強い)X線(これを「硬X線」と呼ぶ)を観測するべきなんだけど、いままではそういうX線を観測することは、技術的に難しかったらしい。

 そこで登場したのが、2年前に打ち上げられたばかりの「スウィフト」だ。このX線観測衛星は、その硬X線を観測することが可能となっていて、現在は、これまでで最高の感度で、硬X線によって観測した全天マップを作成中で、硬X線でしか見つけられない新天体を続々と発見中だったりする。

 今回の発見は、この「スウィフト」が発見した硬X線源を、さらに「すざく」で詳細に観測することで、その周辺の構造を詳しく調べた結果、大量の物質の内側に深く埋もれた、“ニュータイプ”の巨大なブラックホールであることが分かったっていう話なのだ。

 要は、周囲にいっぱいものがあって、可視光はもちろん通常のX線観測でも分かんなかったってこと。「スウィフト」じゃ逆にブラックホールの回りにある物質の壁が分かんないから、そこは「すざく」で観測することで補って、どういう姿なのかがようやくはっきり分かったらしい。合わせ技一本、ってとこですな。

 でもって、これから、2種類のX線観測衛星を使って、どんどん新しいブラックホールを見つけられるんじゃないかってことで、これまで以上にブラックホールの謎に近づけるかも、と専門家たちは期待してるらしい。

 こういう「最新の技術」と「研究者の創意工夫」が新しい発見を導いた話って、発見された事実そのもの以上に、「科学ってやっぱりおもしろいし、まだまだいろんな可能性があるよなあ」なんて、筆者なんかは素直に感動しちゃうんだけど、読者の皆さんはどうですか?

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宇宙 | NASA | 衛星 | JAXA


堺三保氏のプロフィール

作家/脚本家/翻訳家/批評家。

1963年、大阪生。関西大学大学院工学研究科電子工学専攻博士課程前期修了(工学修士)。NTTデータ通信に勤務中の1990年頃より執筆活動を始め、94年に文筆専業となる。得意なフィールドはSF、ミステリ等。アメリカのテレビドラマとコミックスについては特に詳しい。SF設定及びシナリオライターとして参加したテレビアニメ作品多数。最近の仕事では、『ダイ・ハード4.0』(翻訳:扶桑社)がある。仕事一覧はURLを参照されたし。2007年1月より、USCこと南カリフォルニア大学大学院映画学部のfilm productionコースに留学中。目標は日米両国で仕事ができる映像演出家。

ウェブサイトはhttp://www.kt.rim.or.jp/~m_sakai/、ブログは堺三保の「人生は四十一から」


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