この連載の第2回でも書いたが、レコメンデーションは6つに大別することができる。再掲しておこう。
これまでの連載では、(1)から(5)で先端的アプローチがどのように進んでいるのかを、ざっと見渡してきた。そこで今回からは、いよいよ(6)のアプローチに入っていこう。この連載の総合タイトルは「ソーシャルメディア セカンドステージ」。ソーシャルメディアと銘打っているのにもかかわらず、レコメンデーションの話を延々と続けてきたのは、この両者がいまや不可分の関係になりつつあるからだ。
なぜレコメンデーションとソーシャルメディアが不可分なのだろうか。連載第1回でも書いたように、インターネットの情報が天文学的なスケールになったことで、情報量はわれわれの認知限界を超えてしまっている。この結果、従来の検索エンジンやパーソナライゼーションのようなアプローチでは、求めている情報にうまくリーチできないという問題が生じてきている。従来のアプローチの問題というのは、例えば次のようなものだ。
ではどうすれば、このような問題を回避することができるのだろうか――と考えたとき、そこでいくつかの新たなアプローチが浮かび上がってくる。ソーシャルメディアというのは端的に言えば、人々の集合知をメディア化し、何らかのかたちで集約していくというモデルのことだ。この考え方をレコメンデーションに当てはめると、どうなるか。
「わたし」というひとりの個人が、あることがら(商品購入、情報収集、企業との出会い、それ以外の何でもよい)について何らかのレコメンデーションを求めている場面を考えてみて欲しい。例えば「わたし」がオートキャンプが趣味だったとして、この秋に楽しめそうな未開拓のキャンプ場を探しているとしよう。
私は検索エンジンを使い、「キャンプ場」「オートキャンプ」などのキーワードで検索してみる。しかし国内のキャンプ場は膨大な数があり、どのキャンプ場が良いのかを選び出すことができない。自然をたっぷり残して野性的な、経験者向けのキャンプ場。子供用の遊具やイベントが充実した家族向けのキャンプ場。施設がきれいで人の少ない大人向けのキャンプ場。いろんなキャンプ場が国内には存在するが、その中でどのようなキャンプ場を「わたし」が好んでいるのかを、検索エンジンの側は知りようがないからだ。もちろん検索エンジンで「大人向け キャンプ場」といったダブルキーワードを使って絞り込んでいき、「わたし」にとって最適なキャンプ場を見つけ出してことは不可能ではない。しかしそれにはかなり高度なスキルが必要で、一般的ではない。
それとも、「わたし」が過去に行ったキャンプ場の履歴から、協調フィルタリングによって最適なキャンプ場をお勧めするというのはどうだろうか? 「わたし」は妻と二人暮らしで、妻はアウトドアにあまり慣れていない。だからこれまでのところ「わたし」夫婦は、整備されたきれいなキャンプ場ばかりを選んできた。となるとパーソナライゼーションをベースにしたレコメンデーションでは、おそらく整備されたきれいなキャンプ場ばかりをお勧めしてくることになる。それはそれで構わないのだが、しかし国内には「わたし」もまだ知らないような、思いも寄らない面白いキャンプ場が存在するのではないか? 大人向けのきれいなキャンプ場にばかり行っていると、そうした楽しいキャンプ場を一生知らないまま終わってしまうのではないか?――そういう疑問も頭をもたげてくる。
あるいはコンテンツベースフィルタリングによって、「わたし」に最適なキャンプ場をお勧めするという方法もある。「わたし」が事前にどのようなキャンプ場が好みなのかを登録しておき、その好みに応じてさまざまなキャンプ場を選択してくれるというわけだ。だがこれも協調フィルタリングと同じで、「わたし」が具体的に好みとする範囲でしかレコメンデーションすることができない。「わたし」が「大人向け」「清潔」「高規格」といった好みを登録しておけば、コンテンツベースフィルタリングは大人向けで清潔で整ったキャンプ場しかお勧めしてくれない。やはりそこには新たな出会いはない。
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