謎解きにはドラマを作ろうプロ講師に学ぶ、達人の技術を教えるためのトーク術(2/2 ページ)

» 2009年06月04日 17時45分 公開
[開米瑞浩,Business Media 誠]
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イメージしやすい材料を用意する

 ペンギンの話の場合、最終的にはこういう形で話を締めくくります。

「フンボルト海流の長い旅」(後編)

講師 実は南極からガラパゴス諸島までは、フンボルト海流という寒流が流れてるんだ。寒流ってことは、暖かい、冷たい、どっち?

学習者 冷たい、ですよね?

講師 そう、寒流だから冷たい流れだよね。ペンギンにとってはありがたい? 困る? どっち?

学習者 ありがたい……かな?

講師 だろうね。なんたって南極に棲むような鳥だから、涼しいほうがうれしいよね。

学習者 じゃあ……ガラパゴスペンギンも、その寒流のおかげで涼しいから生きていられる、ということですか?

講師 そうなんだよ! 実はほかのフンボルトやマゼランも同じで、こんなふうになってるんだよね(※図1参照)。


 南極から赤道に向かってフンボルト海流がはるばるはるばる長〜い旅をする、その冷たい水の中でマゼランペンギンもフンボルトペンギンも、ガラパゴスペンギンも生きているっていうわけだ!

学習者 へえー……そうだったんですか!

 以上、これでガラパゴスの謎は完結です。赤道直下なのに暑くないのはなぜか、という疑問への直接の答えはフンボルト海流ですが、海流だけだとイメージが湧きにくいので、ペンギンを使いました。

  • A:海流を思い浮かべてください
  • B:ペンギンを思い浮かべてください

 どちらがすぐにイメージが湧きますか? 明らかに「ペンギン」のほうですね。

 言葉で指示されたもののイメージを描く能力には人によってかなりの個人差があり、その差は特に「海流」のように、

  • 日常目にする機会が少ないもの
  • ハッキリした境界(形)のないもの

 については大きく現れます。それに対して「ペンギン」なら誰でも知ってますし、ハッキリした形があるのでイメージしやすいわけです。

 その上で、

  1. 南極に棲む鳥と思われているペンギンが、赤道直下にもいる、という意外性
  2. そしてその間を結ぶのがフンボルト海流(寒流)

 こんな演出をしてやれば、「寒流が冷たい水を運んで長い長い旅をする」という知識がリアリティを持って受け取られるわけです。

 実は、前回の「世界各地の気温」と今回の「ペンギン」の話は、いずれもこの知識を教えるために用意した演出材料でした。

 「寒流が冷たい水を運ぶ」なんて、たった1行で済むような話を説明するために、世界各地の緯度と気温とペンギンの生息分布を調べて、それを使って「教えるシナリオ」を組み立てたわけです。一見単純な、簡単な知識のようでも、記憶に残るように教えるためにはそんな工夫が必要です。

 こんな工夫をするのは大変に手間がかかるので、いつも必ずやれとはいいません。しかしもしまったく考えたことがないならば、次回は試しに一工夫して、そして学習者の反応を見てください。きっと、無味乾燥な「解説」型の教え方とは全然違う反応に驚かれると思いますよ。

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