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» 2012年05月17日 10時00分 UPDATE

説明書を書く悩み解決相談室:行動を起こす場面をイメージしてますか? (1/2)

ある課題から解答を出す際、1つの解釈のみで考えるのを止めていませんか? 自覚がなくても、物事には実は別の見方があるもの。そういうときこそ、具体的な行動を起こす場面をイメージしてみてください。

[開米瑞浩,Business Media 誠]

 アイデアクラフト・開米瑞浩の「説明書を書く悩み解決相談室」第27回です!

 私の主業務は、社会人の「分かりやすく書く力」を伸ばす教育研修です。よって、世の中にあるいろいろな「分かりにくい」文書を練習問題として「はい、これをもっと分かりやすく書き直してください」と出題することがよくあります。

 そこで受講者が考えているところを見ていてときどき感じるのが、「書かれた文言が表している現実世界をイメージできていないことがある」という問題です。

 例えば、極端な例ですが次の文を見てみましょう。

  1. 世田谷区在住の佐藤さんは近所のスーパーでの買い物帰りに、若い男にバッグをひったくられ、現金およそ10万円の被害にあった。
  2. 中央区の商店主高橋さんは銀行からの帰り道に、若い男にバッグをひったくられ、現金およそ10万円の被害にあった。

 どちらも「外出先からの帰り道で10万円をひったくられた」というほとんど同じ内容なのですが、1は2よりも不自然な印象を受けるはずです。「佐藤さん」の性別は書いていませんが「スーパーでの買い物帰り」と読めば1番イメージしやすいのは家庭の主婦です。しかし、主婦がスーパーの買い物帰りに現金10万円を所持しているというケースは、あっても年に数回程度でしょう。

 一方「商店主が銀行からの帰り道に現金10万円を所持している」のはごく普通にありそうなことです。そのため、「文章が表している現実世界をイメージしながら読んで」いれば、1は2よりも不自然に感じるはずなのです。ところが、この「文章から現実のイメージを思い描く」ことを苦手にしている人が少なからずいるようです。これは「著者の思った通りに伝わらない」事態を引き起こす大きな原因になります。

 さらにもうひとつ別な例があります。私が家の近所を散歩していると「不審者に注意」「ひったくりに注意」といった防犯用の看板をよく見かけます。市の防災、防犯情報メールサービスからもちょくちょく空き巣や振り込め詐欺や不審者などの情報が来ますし、過敏に構える必要はないにしても基本的な注意はしておきたいものです。

 ということで今回は、防犯にかかわるチラシを題材にしてみましょう。

課題テキスト1

犯罪に巻き込まれないために、家庭でやっておきたいこと

(A)家族で防犯について話し合う時間を持つ

(B)住む町で発生した犯罪事例を知る

(C)防犯対策の方法を知る

 これは私があるときに見かけた、地域住民への防犯対策を呼びかけるチラシの上半分に大きく書いてあった文言です。もちろん、これはこれで間違ってはいないし、長くもなく簡潔で分かりやすく書いてあります。

 しかし、ふとあることに気が付いた私は、それを基に次のような問題を作って企業研修の場で出題してみました。

課題テキスト2

 課題テキスト1の(A)〜(B)にそれぞれ数文字の見出しを付け、その見出しを使って一文を作ってください。

 何を問いているかすぐには分かりにくいかもしれませんが、いくつかヒントを出して考えてもらうと、よく出てくるのが次の2種類の答のどちらかです。

  • 解答1:家族の防犯【(A)意識】を高めて、犯罪【(B)事例】と【(C)対策】の情報を知ろう
  • 解答2:犯罪【(B)事例】とその【(C)対策】を調べて、それを家族に【(A)徹底】させよう

 (A)が最初に来るか最後に来るかという違いがあり、そこで使う見出しも「意識」か「徹底」かといった差がありますね。

 実は、この話はこんなふうに構造化できます。

shk_kai2701.jpg

 (B)と(C)は変わりませんが、(A)は「(A1)家族の防犯意識を高める」と「(A2)家族に徹底させる」、の2種類の意味に解釈できるわけです。(A1)は一連の流れの出発点であり、(A2)は逆に最後の実践の部分です。そして(A1)〜(C)に注目すると解答1になり、(B)〜(A2)に注目すると解答2になります。

 「なんだよ、細けえことを気にするやっちゃなあ」

 と思われるかもしれませんが、こういう細部のイメージの違いでうまく話が通じなくなることもありますので油断なりません。

「意識」「徹底」2つの解釈ができると意識した上で使い分けを

 傾向としては、家族の中でも子供が既に成長して自分で考えられるようになっている人は(A1)の「問題意識の喚起」というイメージを持ち、まだ幼児の場合は(A2)の「周知徹底」というイメージを持つ場合が多いですね。

 小さい子供の場合は「問題意識」から始めてもあまり効果が無く、やってはいけないことを具体的に教え込むことが重要です。対して、成長して自覚的な行動が取れるようになったら逆に自分自身の問題として意識させることが重要になります。そのため、小さな子供を想定して話をする人は無意識のうちに(A2)を中心に語るでしょう。一方、成長した子供や大人を想定して話をする人は(A1)を中心に話をするはずです。

 (A1)と(A2)の違いをしっかり認識していれば、どちらも踏まえた説明ができます。しかし、それが無自覚だと、例えば「(A2)のイメージで考えている人に向かって(A1)の話ばかりしてしまう」ことになりかねず、そうすると「あの人の話はいまいちピンと来ない」となりがちです。

 そんな事態を防ぐために有効な方法は、具体的な行動を起こす場面をイメージすることです。今回の課題テキスト1のような個条書きの字面を表面上なぞっただけでは「言葉としては理解できても、行動のイメージを持てていない」場合がよくあります。

 「家族と話し合う」とあったら、実際に話し合う場面を映像として頭の中にイメージしましょう。そういうイメージを持つと(A1)→(B)→(C)→(A2)という流れに思い当たり、(A)の解釈が2種類あることに気付きやすくなります。

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