「若手を育てられない」「従業員のモチベーションが低い」――。多くの日本企業が抱えるこうした問題はなぜ生まれるのだろうか。
法政大学経営大学院 イノベーション・マネジメント研究科の藤村博之教授は、厚生労働省などが5月29日に開いたシンポジウム「企業の成長戦略に不可欠な“人が育つ仕組み”」の基調講演に登壇。問題が生じる要因と解決策について見解を語った。
藤村教授によると、日本企業がこうした問題を抱える理由は、(1)短期志向の経営方針・評価基準を用いている点、(2)成果主義に傾倒している点――などだという。
短期志向の評価基準を用いている企業では、若手を短いスパンで評価し、すぐに「使えない」と切り捨てるケースが起きやすく、早期離職につながっているという。成果主義を取り入れた企業では、愛社精神を持ち、成果が出なくても地道に努力している社員のモチベーション低下が起きるとしている。
解決に向けた提言としては、まず「評価の時間軸を長めに取り、短期間で結果を出せない若手を見捨てず中長期的な視点で評価すること」を挙げた。
藤村教授は「企業は、真っ白な状態で入社してくる新卒を内部で鍛え上げる社会的責任がある。こうしたノウハウを磨くことは企業の成長にもつながる」と指摘。「若手を『使えない』と切り捨てて外部人材の獲得に頼ってばかりでは進歩はない」という。
「働く人は、自分の実力が伸びた時期を振り返ってみてほしい。結果が出ない時に厳しい管理職や先輩の下で必死に働いた経験があるから、今のあなたがあるのでは。日本企業は、このように長いスパンで部下を育てる取り組みを広げるべきだ」(藤村教授)
また藤村教授は、日本企業は欧米で主流の成果主義を取り入れた、「会社の価値観に合いそうな人を重点的に採用し、仕事内容は適正をみながら決める」――という昔ながらの人材戦略を変えたことが社員のやる気をそいでいると分析する。
同氏によると、かつての人材戦略では、日本企業は社員をしばしば異動・転勤させることや、時として私生活を犠牲にした労働を課すことも辞さなかった一方、安定した雇用と給与を約束し、多少結果が出なかった場合も切り捨てることはなかったという。
だが時代の変化とともに、各社は成果主義に傾倒。企業と人材の間で哲学の相違があったとしても、本人のスキルと仕事内容が一致しており、より成果を出せる人を採用する――という方針に切り替え始めたと指摘する。
評価指標も変更し、愛社精神を持ち、惜しみなく仕事にエネルギーを投入している社員に対しても、売上などの成果が出なければ低評価を下すドライな方針に変えた。その結果、忠実に仕えてきた社員が戸惑い、士気の低下につながっているという。
「かねて日本企業が発展してきた背景には、企業・社員の結び付きの強さがある。その背景にある『社員の面倒を見る』『安心して仕事に打ち込める環境を築く』という責任をおろそかにすると、現場の士気は下がるだろう」(藤村教授)
ただ藤村教授は「ビジネス界で生き残るためには、需要がある能力を延ばす努力を、人材側も怠るべきではない」と話す。「能力には“賞味期限”があり、絶えず努力しないと価値は下がってしまう」という。
「社会人は、時としていつもと違う場所に自分を置き、違うものを見たり違う人と話したりするべきだ。こうした取り組みがイノベーションを生む」と藤村教授は力を込めた。
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