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加藤厚労相を直撃 「高プロの要件を変更する考えはない」 「働き方法案」が参院で審議入り(3/3 ページ)

» 2018年06月05日 07時00分 公開
[今野大一ITmedia]
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「高プロは交渉力のある人が対象 その考え方は変わらない」

――「高プロ」はあらゆる労働時間規制を取り払う制度で、「定額働かせ放題」とも呼ばれている。長時間労働を防ぐ措置がなくなる危険性や企業が悪用する可能性も指摘されているが。

加藤厚労相: 確かに高プロについてはいろいろな議論がある。ただ、仕事や企業の在り方が変わってきている中で求められるのは、より付加価値の高いものをいかに作り上げるかだと思われる。

 そういう働き方が求められる中で、労働時間規制の枠組みを取り払い、自律的に働くことで成果を出したいという人たちが出てきている。そのような働き方を、次の時代に向けてしっかりとこの国に根付かせていくことが、わが国の産業や経済を発展させる上で必要だ。

 ただ誰でも彼でもそのように働くべきだ、といっているわけではない。年収要件や対象業務など、職務の範囲が明確でなければならない。また本人の同意も必要だ。そうした要件をクリアして初めて、労働時間や割増賃金の規定から適用除外とするのだ。

 長時間労働への懸念については日本労働組合総連合会(連合)からも要請があるなど、いろいろな人からご意見があり、健康確保措置を設定している。1つには、年間104日以上の休日、かつ4週間以内に4日以上の休日取得を義務付けている。また、使用者による労働時間(健康管理時間)の把握、これは在社時間と職場の外で働いた時間を把握するということで、一定時間を超えた場合は医師の面接指導を受けさせなければならない。

 これ以外にも、さまざまな健康確保措置を選択的に取り入れることによって長時間労働を防ぎ、働く人の力を十二分に発揮できる社会を作りたいと考えている。

phot 高プロの必要性を説く加藤厚労相

――現在は年収1075万円以上が適用対象者となっているが、制度の枠組みが作られた後に、年収基準の引き下げや対象業務の拡大もあり得るのか?

加藤厚労相: 今回の年収要件は「交渉力のある方」を対象としている。かつても同じ議論があった。その当時に出てきたのが、平均給与の3倍を超える1075万円という水準だった。その考え方が変わることはあり得ない。今後も変えるつもりはない。

制度は作るが、最終的には企業での取り組みが必要

――大企業ももちろんだが、この国の多くを支えているのは中小企業だ。制度を作ることに加えて、いかに中小企業の「働き方改革」に魂を入れていくのかが課題だと考えている。国としては何ができるのか、最後にお聞きしたい。

加藤厚労相: 確かに中小企業の方々が、働き方改革に取り組むことは重要だ。政府としては、全国47都道府県に「働き方改革推進支援センター」を設置し、長時間労働の是正など、企業の個別指導に当たりたいと考えている。あるいは労働基準監督署においても、これまで以上に丁寧な相談体制を構築していきたい。 

 時間外労働を短くするためには、いろいろな設備投資を実施する必要も出てくるだろう。生産性向上に資する機器の導入などを政府として支援し、トータルに取り組んでいく。

 もちろん政府として制度は整備していくが、基本的にはその企業ごとの労使において、働き方改革に取り組んでいただかなければ実効性のあるものにはならない。今までの悪しき企業文化をいかに打破していくのか。政府としてはそれを応援していく構えだ。

 当然、この法案が成立すれば、この法律の内容についても労使それぞれにしっかりと説明していく。現在も生産性向上に取り組む企業を応援しているが、同様に働き方改革を進める企業も支援し、予算上の措置も講ずる。企業や事業所ごとに、着実に進めていけるよう支援していきたい。

phot 政府は、働き方改革に取り組む企業を応援する構えだ

企業は本当に「高プロ」を悪用しないのか

 以上が加藤厚労相にインタビューした内容だ。

 高プロについては「わが国の産業や経済を発展させる上で必要」とし、年収要件の変更や対象業務の拡大についても「考え方が変わることはあり得ない」と断言した。だが、高プロの対象者が労働時間規制の枠組みから外れる以上、労働者を長時間働かせるなど、企業が悪用する可能性が全くないとは言い切れないのではないか。

 法案は今月中にも成立する公算が大きいが、長時間労働を防止するための対策を引き続き検討する必要がある。

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