その結果どうなったか。リスクを取らない人物が社長となり、投資よりも内部留保に資金を溜め込んでいった。463兆円の内部留保(利益剰余金)と言っても、それは建物や設備に回っていて、金庫にお金が眠っているわけではない、という主張も経済界にはある。それはその通りだ。だが、統計を見る限り、463兆円の半分が現預金として企業にもたれている。
そんな経営者にリスクを取って投資しろ、と言っても難しい。だが、ジワジワとコーポレートガバナンス改革の成果が出始めている。最も効果が大きいのは、生命保険会社や年金基金といった機関投資家が、「モノ言う株主」に変化してきたことだろう。2014年に導入され、その後改定されているスチュワードシップ・コードによって、機関投資家は保険契約者や年金委託者などの最終受益者の利益を第一に行動することが求められるようになった。かつては企業経営者に白紙委任状を差し出す「モノ言わぬ株主」と言われた機関投資家の姿勢が一変したのだ。
特に、株式を保有する先の企業の株主総会での議案への賛否の公表が当たり前になってきたここ数年、経営者側提案に「否」を付ける機関投資家が出てきた。十分な利益を上げていなかったり、配当など投資家への利益分配が不十分な経営者、スキャンダルを起こした経営者にバツをつけるようになったのだ。
直近では、日産自動車の西川廣人前社長が臨時取締役会で事実上解任されたが、その直前に、6月の株主総会で大株主の日本生命保険が西川氏の再任議案に反対していたことが明らかになった。大株主にバツを付けられた経営者を残しておけば、独立社外取締役としての見識が問われ、次の株主総会で今度は社外取締役まで否認されかねない。結局、社外取締役が中心になって西川氏に辞任を求める結果になった。
上場企業の9割以上で社外取締役が設置されるようになったのも大きい。会社法での義務付けはようやく今の国会での改正法で実現するが、2015年に上場企業としての在り方を示したコーポレートガバナンス・コードによって、事実上義務付けが始まっていた。きちんと利益を上げ、その果実を再投資して企業の発展につなげられる経営者でなければ、社外取締役から厳しい意見を突きつけられる、そんな時代になりつつある。
まだまだ、形ばかりの「社外」取締役を1人か2人置いている企業が多い。この社外取締役が本当に機能することになれば、唯々諾々と内部留保を積み上げる経営は姿を消していくはずだ。
磯山 友幸(いそやま・ともゆき)
経済ジャーナリスト。1962年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。日本経済新聞で証券部記者、同部次長、チューリヒ支局長、フランクフルト支局長、「日経ビジネス」副編集長・編集委員などを務め、2011年に退社、独立。著書に『国際会計基準戦争 完結編』(日経BP社)、『「理」と「情」の狭間 大塚家具から考えるコーポレートガバナンス』(日経BP )、『2022年、「働き方」はこうなる 』(PHPビジネス新書)、共著に『破天荒弁護士クボリ伝』(日経BP )などがある。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR注目記事ランキング