マーケティング・シンカ論

「大量閉店」に追い込まれたのに、なぜクリスピーは“復活”したのか週末に「へえ」な話(2/4 ページ)

» 2022年10月02日 08時00分 公開
[土肥義則ITmedia]

「店舗運営力」に注目

 このような「結果」を知ると「よかった、よかった。オレはドーナツが好きだから、たまに買うんだよねえ」と思われたかもしれないが、筆者は気になっていることが2つある。先ほど紹介した不振に陥った原因である。

 1つめの理由「健康志向」については、いまでも続いている。ここ数年でいえば、オートミールやタンパク質にフォーカスした商品が盛り上がっている。この5年で“不健康志向”が広がった、なんて話は聞いたことがない。というわけで、本当に「健康志向」が原因で、クリスピーの売り上げが落ちたのか疑問である。

 2つめの理由「コンビニドーナツ」も、ビミョーである。確かに、当時のコンビニはレジ横の一等地でドーナツを販売していたこともあって、「ちょっと買ってみるか」といった客も多かったはず。売り上げが伸びていたこともあって、「ドーナツ界の王者、ミスタードーナツも食われてしまうのでは?」といった声がでていたほど。

 しかし、ご存じのとおり、その後は減速。となると、ゲーム「リバーシ」の黒が白にひっくり返るように、コンビニからクリスピーにひっくり返ってもおかしくはないが、そんな話も聞いたことがない。同社に確認したところ「利用シーンが違うので、(昔も今も)当社への影響はないように感じている」とのこと。

業績不振の原因として「2つ理由」が指摘されていた

 では、どういった理由で既存店の売り上げが伸びたのだろうか。取材したところ、2つの理由が浮かんできた。

 1つめは「店舗運営力」である。上陸当時、連日のように行列ができていたこともあって、現場でちょっとした混乱が起きていた。働く人たちは中途採用ばかりで、店の運営は彼ら・彼女らの“過去の経験”に頼る部分が多かった。また、新しい店ができると、そこに優秀な社員を異動させて売り上げを確保していた。そうなると、その人がいた店がダメージを負うことになる。

 経営資源が分散されたことによって、既存店の売り上げが減少していったのだ。社長の若月貴子さんは14年に副社長に就任し、マーケティング部門を統括することに(社長には17年に就任)。売り上げが減少しているだけでなく、現場が“混乱”していることも受けて、16年の大量閉店を主導したのだ。

渋谷シネタワー店

 商品をきちんと説明できているのか、お客をきちんと接客できているのか、店内でゆっくりとくつろいでいただけているのか――。どの店に行っても、心地よく感じられるサービスを受けられるように、改善を試みる。

 毎年のように「顧客満足度」を調査しているわけだが、結果はでているのだろうか。2016年の数字に比べて、22年(4〜7月)は19%も伸びているようで。いくつかの項目がある中で「担当者の親しみやすさ」と「スピード」が目立っていた。また、以前と比べて店舗間の差がほとんどなくなったという。

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