ベンチャーキャピタリストとオープンソースは手を取り合えるか?Open Source Way 2004レポート

Open Source Way 2004のセッションではサンブリッジ代表取締役社長のアレン・マイナー氏が登場。ベンチャーキャピタリストがOSSをどのように見ているかについて興味深い講演が行われた。

» 2004年12月01日 23時57分 公開
[西尾泰三,ITmedia]

「ベンチャーキャピタルとオープンソースソフトウェア(OSS)のかかわりをさかのぼってみると、1997年に大きなトピックがあった。さて、それは何だろうか」と観客への質問から始めるという風変わりな講演を行ったのは、サンブリッジ代表取締役社長のアレン・マイナー氏。ベンチャーキャピタリスト(VC)として知られる同氏が、Open Source Way 2004でVCから見たOSSについて語った。

「VCが行う投資は統計的に2割の成功率」と話すマイナー氏

 同氏が冒頭の質問の答えとして挙げたのは、VCがCygnusへ行った投資だった。同氏によれば、VCからオープンソース系企業への投資としてはこれが最初で、当時としてもかなり意欲的な取り組みと考えられていたと話す。その後、1998年にはオープンソースに対する認知が進み、1999年にはRed Hat、Cobalt、VA Linuxなどオープンソース系企業3社がIPOを行った。

 続けて同氏は、その3社のその後の状況を例に挙げ、企業のその後は最初の2年で分かるものだと話す。早期のビジョンを保ったままうまくビジネスを進めたRed Hat、ビジョンを保つこともブランドを普及することもできずに失速したCobalt、そして環境に対して柔軟にビジネスを進めるVA Linuxといった具合だ。

トップクラスのアイデアより、トップクラスのチームに投資せよ

 同氏はVCが行う企業評価について説明する。米国では、1000社の企業があれば、100社がリスクもあるが成長のポテンシャルを持つ企業であるという。その100社の中でもさらに10社が、グローバルな規模に成長する可能性があるのだという。そしてその10社、割合にすれば1%の企業を同氏は「満塁でホームランを打つバッター」と呼び、投資の10倍の企業価値を持つのだと話す。これを数値で表すものとして、同氏は「3/5」(スリーファイブ)という言葉を挙げる。これは、5年で50%のCAGR、そして5年目の売り上げが50億である状態を示しており、これが投資を行うかどうかの最初の基準であるという。

 しかしVCは「先進的な技術」に投資するのではなく、「ビジネス」に投資をするのだと話す。そのため、人に関する部分への評価が重視されているという。実際、4年ほど前にVCに対して行ったアンケートでは、投資の決定的要因として、「経営者の情熱」、「信頼性」、「マーケット」、「経験」といった項目が上位を占めたという。

「ビジネスは人間関係に依存している。トップクラスのアイデアより、トップクラスのチームに投資せよ、という考え方がVCには浸透している」(マイナー氏)

OSSへの投資は難しいが、デュアルライセンスに注目

 しかし、チームや人間に重きを置くVCでも、OSSプロジェクトへの投資に対しては、いくつかの障害があると同氏は話す。

 これはエンジニアが中心となり、かつ、それらがネットワークを介してつながっているだけのことも多いオープンソースソフトウェアプロジェクトでは、組織がつかみにくいという点があることが挙げられる。また、プロジェクトの初期段階では、どちらかといえば金銭的なことより、参加するエンジニアのやる気のほうが重要であることが多く、VCとの接点自体があまり求められていない状況がある。

 また、Firefoxを例に挙げ、ダウンロード数は数百万を越えているが(関連記事参照)、それによってTシャツなどの販売による利益は増えていないとOSSでビジネスをすることの難しさを指摘する。

 こうした状況のため、VCがOSSプロジェクトに直接投資することは考えにくいが、OSSを使ってシステムを効率的に構築する企業、つまり間接的に投資することはあり得る話としている。

 合わせて同氏は、「デュアルライセンス」に注目していることを明かす。例えばノルウェーのTrolltechは、Qt(Q Public License)をQPLとGPL(General Public License)のデュアルライセンスで提供することで売り上げを伸ばしているし、MySQLもGPLとコマーシャルライセンスのデュアルライセンスである。同氏が最近投資した12社のオープンソース企業の半分以上がこのデュアルライセンスを採用していると話し、一つのモデルになるのではと期待を寄せる。

 OSSが発展した要因として同氏は、シリコンバレーが抱えるエコシステムの崩壊を挙げる。一般的には、米国型のイノベーションが「革新」で、日本型が「改善」であるように思われているが、実際には、米国のIT業界が行ったのは、メインフレームの小型化など、いわゆる「改善」に過ぎないと同氏は自説を展開する。その上で、本当の革新的なイノベーションは、携帯電話やデジタルカメラなど、ユーザーがPCと意識することがないデバイスであるとしている。

 そして、次世代のIT産業は、日本、そうでなければ中国などアジア地域から生まれると予測し、そうしたものを一緒に作り上げていきたいとして講演を終えた。

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