「筋が悪い」――八田真行氏、DCCAを斬る

LinuxWorld Conference & Expo San Francisco 2005で発表されたDebian Common Core Alliance(DCCA)。この発表に関して、八田真行氏にもコメントを求めた。

» 2005年08月11日 01時30分 公開
[八田真行,ITmedia]

 LinuxWorld Conference & Expo San Francisco 2005で発表されたDebian Common Core Alliance(DCCA)。この発表に関して、八田真行氏にもコメントをいただいた。

Debian「外部」でなければならないか?

 DCCAに関する今回の一連の動きでは、さまざまなことが(往々にして利害関係者の事前承諾無しに)発表されているが、客観的に眺めてみれば、1)Debian Common CoreというコアをDebianの外部で用意する、2)基本的にはそちらの面倒を集団で見る、ということに尽きるだろう。

 しかし本来、Debianが何か問題を抱えているのであれば、まずはDebian内部での解決を目指すべきである。Debianは曲がりなりにも民主的に運営されているプロジェクトであり、LSBへの準拠にしても、やりたければDebianの公式パッケージに直接パッチなりなんなり投げれば済む話ではないか。あるいは、Debian内でワーキンググループを立ち上げてもよいはずだ。いずれにせよ、事前にDebianの公式メーリングリストで議論するなど、大多数の開発者との意思疎通を図らないままメディアへのリークが中途半端に繰り返されたことは遺憾に思う。

 また、DCCA参加企業の関係者の発言を見ても、Debianからの独立(フォーク)を志向するわけではないと繰り返し述べる者がいる一方で、Debian本体との協調を必ずしも志向していないようにとれる発言をする者もあり、意見の統一が図られていないような印象もある。加えて、企業が共同してDebian Common Coreを開発するということになると、主導権争いになったり、フリーライドされたりといった事態が容易に予想されるが、技術的な問題と説明責任さえクリアになっていれば容易なDebian そのものへのコミットと比べ、いわゆる「業界コンソーシアム」がこれまで悩まされてきたような、ややこしい政治的なごたごたが発生する可能性は高いのではないか。

これは「Debian」なのか?

 とはいえ、Ubuntuのように、Debianとは完全に(インフラも含めて)別にやる分には、誰も文句を言わない(彼らは別にやっている上にできるだけDebianそのものにもコミットしているわけで、少なくともこの文脈では非難しようがない)。しかし、DCCは「Debian」 Common Coreの略であり、イアン・マードック(Ian Murdock)氏がこの手の話では常に「Debian founder」と名乗っていることからも明らかのように、Debianとの直接的な関連性を匂わせている。

 にもかかわらず、実態としてはDCCはDebian本体とは別物である(「100%Debian」などという記述はミスリーディングとしか言いようがない)。これはすでにdebian-project MLやspi-trademark MLなどで問題になっていることだが、DCCAはDebian的には好意を持って迎えられていない。プレスリリースなどでは「Debianと協力する」うんぬんとは書いてあるものの、ならばそもそもDCCなど要らないはずで意味が分からない。

 また、DCCAはDebian本体との協力を志向すると主張し、例えばその一環としてリリースサイクルの短縮を目指すと述べているが、その目標自体は是とするものの、具体的にリリースチームなどに人を送りこんでいるかと言えばそういったそぶりも実力もないように思える。現在のDebian Projectのリーダーであるブランデン・ロビンソン(Branden Robinson)氏はProgenyの社員であるが、彼はDCCAには主導的な立場ではかかわっておらず、またDebianの技術委員会メンバーには1人もDCCA側の開発者がいないようだ。参加各組織のDebian開発者総数も決して多くはないように見える。

 一方、今回のDCCAに不参加を決めた組織についてであるが、まずVA Linuxには6人のDebian開発者が所属し、200以上のパッケージメンテナンスを行っていると言われている。また、ここ1年ほどで急激で勢力を伸ばしたUbuntuを開発するCanonicalには15人程度のDebian開発者が存在し、リリース関連などの重要な役職を担っている開発者も多く雇っている。そのほか、教育機関向けのディストロとして定評のあるノルウェーのSkolelinuxも活溌なDebianへの貢献を行っているが、これらの有力な企業がこぞってDCCAに参加していないことも、DCCAの未来が決して平坦なものではないことを物語っているのではなかろうか。

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