テンプレートより早くて安い「Oracle EO」

ERP導入を迅速に行うために生まれたのがテンプレート。しかし、日本オラクルは、それをさらに超える価値を提供する「Oracle EO」を発表した。真に短期かつコスト削減を実現できるという。

» 2005年11月29日 00時08分 公開
[谷川耕一 ,ITmedia]

 ERPパッケージの導入を迅速に行い、コストを抑えて投資回収を容易にするために生まれたのが「テンプレート」という手法だ。この方法では、テンプレートが顧客の業務に適合するかを検証し、モジュールを選択してプロトタイプを構築し、システム評価するところから作業が始まる。企業の業務に一からERPパッケージを適合させる苦労を大幅に低減することが期待できる。

 ところが実際には、顧客の業務を無理やりテンプレートに合わせることをしないかぎり、プロトタイプ上での試行錯誤を繰り返したり、結局は新たなビジネスフローの追加構築を行ったりすることになる。そのため、テンプレートを採用したからといって、必ずしもベンダーがアピールするような短期間かつ低コストでのERP導入が実現できてきたわけではない。

 日本オラクルが11月28日に発表した「Oracle Enterprise Offering」(Oracle EO)は、大企業向けにテンプレートを利用する方法よりもさらに導入を加速して、ERPパッケージの導入において真に期間の短縮とコスト削減を実現できるという。

 Oracle EOは、ビジネスフローのセットアップツールである「Oracle Accelerators」と、日本独自の商習慣を実装する「ベースライン・プロジェクト」から構成される。もちろん、お得意のGridデータベース技術とOracle Fusion Middlewareの上にOracle E-Business Suiteを実装するのが前提だ。

 Oracle EOとテンプレート手法の違いは、ウイザード形式のセットアップツールであるOracle Acceleratorsを使って、ビジネスフローをE-Business Suiteに自動的に実装するという点だ。

ウイザード形式で質問に答えていくOracle Accelerators

 セットアップ時には、米国で構築された240の標準的なビジネスフローに加え、日本独自のビジネスモデルをJapan Baselineという形で適用できる。ERPパッケージ導入では、初期段階の導入費用が全体の6割を占めるという。今回のOracle EOでそのコストは半分に圧縮できるという。

 モジュールを選択してテンプレートを決め、プロトタイプを構築し検証することでERPのビジネスフローを業務に適合させるのではなく、PCのソフトウェアをインストールするようにウイザードの質問に答えていくことで、初期段階のERP環境をとにかく構築してしまう。この方法において、米国の標準ビジネスモデルだけしか選択できなければ、カスタマイズ要求の高い日本ではうまくいかないだろうが、Oracle EOでは日本オラクルに蓄積された日本市場向けのノウハウと、各パートナーが得意とする業種に特化したノウハウを併せて適用できるようにした。これが日本市場での工夫ということになる。

中堅やインテグレーターに意義あるソリューション?

 このOracle EOの手法は、大企業向けよりもむしろ中堅、中小企業向けの方が威力を発揮するかもしれない。初期段階で日本独自のビジネスフローを組み込めたとしても、大企業の高い要求に合致しているかの検証にはそれなりに手間と時間が掛かるはずだ。ある程度フットワークの軽い中堅企業の方が、より短期間かつコスト削減のメリットが得られやすいだろう。

 大企業向けの効果としては、顧客よりむしろ構築を請け負うインテグレーターやコンサルタントにとっての価値が高いのではないだろうか。世界標準的なノウハウと自社の得意とする業種のノウハウを融合させて提案でき、顧客に提案する前にシミュレーション的にこの仕組みを利用することも可能だ。

 日本オラクルでは、将来的には中堅向けの「Oracle NeO」や小規模向けの「Canon Decision Suite」に対してもOracle EOを対応させるという。また、今後の課題としては、買収した出自の異なるPeopleSoftやJ.D. Edwardsなどのアプリケーションに対し、Oracle EOの仕組みを簡単に適用できるのかという点であろう。

 Oracle EOが効果の高い導入手法だとしても、ERPパッケージの市場は決して順風満帆というわけにはいかない。セールスフォース・ドットコムなどが提供するオンデマンド型のサービスの台頭もあり、顧客の要求はさらに厳しいものとなるはずだ。

 結果的には顧客が何を望んでいて、どの方法でそれが解決できるかを顧客の視線でと一緒に考える姿勢が重要となる。製品やサービスの良さだけを一方的にアピールしていても、なかなか成功できるものではない。今回の日本市場への工夫が、顧客に受け入れられるかがOracle EOの成功のポイントになりそうだ。

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