ERPは何をもたらすのか?ERPで変える情報化弱体企業の未来(3/3 ページ)

» 2008年01月17日 09時30分 公開
[赤城知子(IDC Japan),ITmedia]
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現場の力を削ぐことなくERPパッケージを導入する

 第一回目でも触れたが、ERPパッケージの導入においては、現場の力を削ぐことのないよう注意する必要がある。言い換えれば、コンプライアンスを鑑みてERPによるITガバナンスを効かせながらも、現場力を削ぐことなく、サイロ化している部門間での情報共有、現場の見える化による戦略的な経営方針の策定を実現していくことが求められる。自社開発型のシステムによるベストプラクティスを目指すという選択もあるが、パッケージを活用するからこそ変化する市場環境に柔軟な情報システムの構築が短期間で導入可能となる点も無視できない。多くの企業は、自社最適化を目指して開発する部分とERPパッケージなどを有効活用する部分の切り分けや選定を行っており、それらERPソリューションの導入方法論も日々進化している。

 現場の力を削ぐことなくERPソリューションの提案を考えた場合、顧客の置かれている状況を4つの象限でみることができる。

図5 現場力を削ぐことなくERPパッケージを提案。*PKGはパッケージの略。ここではERPパッケージを指す(Source:IDC Japan)

 図5は、ユーザー企業が現有する「システム完成度」の大小を縦軸、「現場力」の強弱を横軸とした場合の4象限である。各象限ごとにERPパッケージを提案していく上で、次のような特徴がある。

  1. システム完成度「高」−現場力「強」:ユーザー企業に導入されている基幹システムの完成度が高く、さらに現場ではビジネスが成長していることから部門評価が高く、よって部門最適化の声が強いケースである。この象限にある企業の多くは「勝ち組」の企業であり、全社最適化を旗印にERPパッケージの導入を強行すると、現場の優れたビジネスモデルの足かせとなる可能性も高い。一方で、コンプライアンスへの対応と継続は必須であることから、ERPパッケージをコンプライアンスの基盤として提案し、既存の優れたシステムと連携させていくことが望ましい。
  2. システム完成度「高」−現場力「弱」:基幹システムの構築ノウハウは非常に高いが、現場ではビジネスの成長が鈍化し、激しい競合の中で伸び悩んでいるようなケースである。このような象限にある企業の多くは、基幹システムの自社開発力が高いことから、構築時点での最適化に優れるが、ビジネスの競合が激しく市場の変化とシステムの不整合が直ぐに起きることから、現場に情報システムが生かせてないケースが多い。まずは、現場課題を抽出し、それらを解決するための全社最適化を提案することが有効である。その際、優れた基幹システムに柔軟性を持たせるためにSOAの実装を提案しつつ、既存システムとERPパッケージを連携させることで、CIOを支援しながらの導入が望ましい。
  3. システム完成度「低」−現場力「強」:基幹システムの構築ノウハウは低く、ビジネスモデルは優れているにも関わらず、部門の評価が上がらないケースである。部門サイドではシステムの課題を認識していることから、ERPパッケージを提案していく上では、現場のリーダーを支援する形で現場の課題を解決していくことが有効である。また、システム完成度が低いことから、現場間はサイロ化されており、情報共有やデータの連携などの課題も多いことから、ERPパッケージによる部門間の連携メリットを訴求することも重要である。
  4. システム完成度「低」−現場力「弱」:例えば中堅中小企業や新規工場や拠点などでは、当然ながらシステムはゼロまたは非常に完成度が低い状況にあり、さらに現場のシステム要求も弱いケースである。このような状況は昨今では大企業のみならず中堅企業においても海外拠点で散見されるケースである。新規拠点のため、情報システムに投じる予算も低く、一方では早期の立ち上がりが求められることから、最もERPパッケージをノンカスタマイズで提案しやすいケースともいえる。低予算であることから、導入前のフィットアンドギャップではじきだした導入コストが定額のまま導入できるかどうかが課題である。ERPパッケージを提案する際に、あとからアドオンの開発などのコストが出ないように、できること、できないことを明確にして導入をスタートする点に留意しなければならない。
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