沼社長が求めていたのは、「仕事の進捗がどんな状況にあるのか現場に行って聞かないと分からない現状を何とかしたい」ということに尽きる。
しかし、その悩みを解決してくれるITベンダーになかなか出会えなかった。「こちらの仕事内容やどう変わりたいかという要望を本当に理解しているのかが分からない」という気持ちも十分に理解できる。同業者に相談をもちかけても、お勧めのベンダーを紹介してくれる会社はなかった。「とてもお勧めできない」という返事が大半だったのだ。どの会社もシステムを作ろうとして挫折していた。自社の器に合ったシステムを構築できないでいたのだ。
齋藤氏はまず、仙崎鐵工所の業務内容から「この会社は一種のファブレス企業だ」と見抜いた。
純粋なファブレス企業は生産設備を持たないので、仙崎鐵工所とは違うが、同社は協力会社と各工程でかなり緊密に仕事のやり取りをする。情報のやり取りだけでなく、仕掛かりの部品やパーツを完成までに何度もやり取りして製品を作っていく。一度納品された部品やパーツは完成まで同社の外に出ないということはなく、何度も行き来しながらパーツを完成させ、組み立てて製品化するわけだ。
こうした企業に単純な組み立て加工会社用の生産管理パッケージを入れても業務の見える化は不可能だ。
ITCはベンダーの対応の悪さを嘆く経営者の話を聞きながら、どうしてシステムがうまくはまらないのかを見抜いたのだ。
齋藤氏はその後多くの協力者に参加してもらい、沼社長がリーダーである改善プロジェクトチームで、経営目標を策定し、IT導入の具体案を模索して、要件定義書作りまでこぎつけた。リーダーの沼社長はその定義書を見て「要件定義書というのは、ちゃんと日本語で素人にも意味が分かるように作られたものだと、初めて知った」という。齋藤氏は解決の糸口はつかんだが、実現のためには最適なメンバーを集め、プロジェクトをスムーズに進行させた。分かりやすい言葉でチームメンバーが共有できる結論を導きだすことができたわけだ。
業務も解決したいことも分かっているのに、いざシステム構築に作業が落とされた途端に「五里霧中」となってしまうのは、会社の業務の本質を見抜くIT担当者の不在が原因ということが多い。そのことの1つの証左として仙崎鐵工所の取り組みをとらえるべきだろう。
ITmedia IT導入ではずいぶん苦労されましたね。
沼 1997年に構築したシステムは、ベンダー担当者とのコミュニケーションが成立していなかったのです。こちらはいろいろと要望は出しましたが、本当に理解されているのか、不明確なままプロジェクトが進んでしまった。事業の根幹にかかわるシステムであいまいさを残したまま構築してしまうと、後で大変な苦労を背負うことになります。
ITmedia 同じような経験をしている中小企業は多いのでしょうか。
沼 すべてとは言いませんが、わたしの周囲では同様の声をよく聞きます。最終的には「専門家が何とかしてくれるだろう」というところに落ち着いてしまうのだと思います。
ITmedia その次のシステム構築は?
沼 生産にかかわるすべての情報を把握しないと、競争力がついていかないということは明白でした。協力会社との連携を含めて、見える化が実現して、効率的に現場を動かさないといけない。ベテランスタッフの力だけではどうにもならないのです。だからシステム構築にもう一度挑戦することを決意しました。
ITmedia ITCとの出会いも大きかった?
沼 当社の業務を把握してから、それに見合ったシステムを構築しようという手順で進めてもらえたのがよかった。当社も妥協はせずに、ビジネス側からの要望を徹底的にぶつけました。お任せする部分はもちろんありますが、システムを使う自分たちが主役なのだ、ということは忘れないようにしていました。
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