Webメールには、GoogleやYahoo!が教育機関向けに提供する無償サービスがある。インターネット経由で電子メールやスケジュール管理といった機能を提供するSaaS(サービスとしてのソフトウェア)形式のものだ。既に国内の大学でも導入が進んでおり、日本大学や立教大学は、数万人規模のユーザーがWebメール「Gmail」などを使うコミュニケーション基盤を作り上げている。
そんな中、東京薬科大学はパッケージ製品であるZimbraを使い、専用サーバをはじめとしたメールシステムを大学内に構築している。GoogleやYahoo!のWebメールも検討した上で、SaaSではなく学内でデータを管理する方法を選んだ。
「データを外に預けるのではなく、大学側で責任を持って管理すると決めていた」。松崎氏はその理由をこう説明する。
同大学は高いレベルでの情報管理が必要とされる医療情報を扱っている。こうした情報を外部のサーバで管理した場合、サービス障害が起こると早急に対応できない。実際Google Appsで起こったサービス障害により、数時間にわたってメールサービスが利用できなくなることも起こっている。
「預けたデータの二次利用や流出の可能性もゼロではない」(森河氏)など、大学外にデータを預けて管理することへの不安は尽きない。医療情報に責任を持つために情報を学内で保有することが、情報管理の安全性を100%に近づけることにつながると考えた。
また、同大学ではメーラーをカスタマイズして独自の使い方をしている教授などもいる。基本機能に特化したSaaS型のサービスでは、細かいカスタマイズやバージョンアップが実現しにくい。システムを学内に保有して自分たちで開発するという土台を作ることで、こうした要望にも応えられるという。
「運用管理の手間を省きたい大学はSaaS型の無償サービスを使う傾向にある。一方でデータの機密性を重視する場合は、自分たちでシステムを構築する場合が多い。大学の特性によってメールシステムの選び方は異なる」(松崎氏)。教育機関におけるメールシステムの導入には、コスト以外の価値がどれだけ得られるかを考える必要がある。
Zimbraの導入により、管理の負担が重くのしかかっていたそれぞれのメールシステムを一元化できた。既に構築していた認証システムとも連携も実現し、専門知識を持たない人でもメールシステムを管理できるようになった。
Zimbraを選んだ理由を松崎氏は「さまざまなサービスとの連携に加え、簡単に操作できる点を評価した。30〜40の製品を検討した上で一番使いたいメーラーだった」と振り返る。教育機関でメールシステムの活用を活発にするには、使い勝手や機能面での充実、管理負担の削減に加え、ユーザーが自発的にメーラーを使う仕組みを取り入れることが必要のようだ。
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