プライベートクラウド

日産の行徳CIO、社内システムのプライベートクラウド化を検討システム構築の新標準

システム構築の新標準として注目を集めているプライベートクラウドだが、CIOはこのキーワードをどうとらえているのか。

» 2009年07月24日 08時00分 公開
[聞き手:怒賀新也,ITmedia]

 システム構築の新標準として注目を集めているプライベートクラウドだが、企業のCIO(最高情報責任者)はこのキーワードをどうとらえているのか。日本の代表的なCIOの1人、日産自動車の行徳セルソ氏に聞いた。

「クラウドはトランザクション規模が予測しにくい分野への導入が効果的」と話す行徳氏

ITmedia 日産自動車の現状の情報システムとプライベートクラウドとのかかわりについて教えてください。

行徳 日産自動車では、社内向けに構築する情報システムを標準化する「共通プラットフォーム」を運用しています。以前はプロジェクトごとにサーバが必要でしたが、Oracle Database 11gのグリッド技術、AIX、Windowsで構築した共通プラットフォームを導入してからは、インフラ構築部門が必要なITリソースを事前に用意することにより、従来は構築に2週間掛けていたようなシステムを2日間で実装できるようになりました。サプライチェーンマネジメントから営業支援システムに至るまで、この共通プラットフォームを広く活用しています。

 この共通プラットフォームを今後PaaS(サービスとしてのプラットフォーム)化、言い換えれば「プライベートクラウド」に移行させる可能性があります。共通プラットフォームにおけるサーバの仮想化などは実施しましたが、ストレージの仮想化は未着手です。1年後をめどに実施する考えです。それが済んでからプライベートクラウド化ということになります。共通プラットフォームが定着し始めていますので、まだ2年は変更することはないでしょう。

ITmedia 仮にプライベートクラウドを実装するとした場合、どんなことが気になりますか。

行徳 プライベートクラウドにおける問題点は、どのようなアプリケーションがサポートされるかです。消費者向けなのか、基幹系なのか。現状は、B2Cに近いものが多く、基幹系システムをプライベートクラウドで運用している例はあまり聞きません。

 B2C向けのアプリケーションは、キャンペーンサイトなどを見ると分かるように処理するべきトランザクション数のピークが予測しにくいという面があります。システムのピーク時に備えて柔軟にキャパシティの追加をするような仕組みをつくれるという意味で「クラウド」はB2C向けアプリケーションの運用に向いています。一方で、基幹系システムのトランザクションはある程度予測できますので、従来通りの仕組みのままでも当面は問題がないわけです。

 ただし、ここでプライベートクラウドとパブリッククラウドの違いが問題になってきます。プライベートクラウドは、ある程度自社で必要となるキャパシティを把握し、ハードウェア、サーバ、ストレージを事前に準備しておかなくてはなりません。ディザスタリカバリの体制も考える必要があります。一方で、パブリッククラウドは、用意するハードウェアのキャパシティなどのリスクをベンダーが負ってくれます。プライベートクラウドにはそこまでの柔軟性はないため、その辺りが導入に当たっての難しさになるかもしれません。

ITmedia 企業の情報システムはどのくらいの範囲でプライベートクラウド化する可能性があるでしょうか。

行徳 受注から出荷までの処理などエンドツーエンドの処理をすべてクラウドに載せるというのは現実的ではありません。例えば、J-SOXにおける運用環境では、バージョン管理、チェンジマネジメント、財務報告にかかわってくるシステムなどが決まっており、クラウドでは対応できない面もあります。J-SOXについては、始まったばかりということもありますので、現状は様子見の段階です。

ITmedia 日産の情報システム部門に今求められていることはどんなことですか。

 ゴーンCEOを中心とした経営層は、電気自動車におけるリーダーシップ強化に注力しています。インド市場への投資、品質管理の仕組みも同様です。そうした中で、自動車に搭載するITS(高度道路交通システム)を開発する部門と情報システム部門の役割は分かれていますが、自動車の開発データなどは情報システム部門が管理しています。自動車のデザイン情報、個人情報、従業員情報などは機密事項ですので、こうした情報を少なくともパブリッククラウドに預けるようなことは考えられません。もし、クラウドに重要データを載せてしまい、それが漏えいしたらメーカーとして責任を問われてしまいます。もし100万人のデータを紛失して、お詫びとして1人に500円ずつ渡したとしましょう。それだけで5億円という損失を被ってしまうわけです。

ITmedia 日産の情報システムの今後について教えてください。

行徳 2000年に開始した情報システムのベンダーへのアウトソーシング契約が、2011年3月で終了します。今の考えでは、アウトソーシングしていたものを再び内製化する考えです。アウトソースした部分がどうしてもブラックボックス化し、コスト削減の場所が分からなくなってしまうという弊害がありました。今後は、これをガラス張りにするために、企画や戦略立案機能を残して管理運営のみを委託する「アウトタスキング」の形式を採用する考えです。

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