次世代スパコン事業継続への必須条件Weekly Memo(2/2 ページ)

» 2009年12月14日 09時01分 公開
[松岡功ITmedia]
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事業推進者は説明責任を果たせ

 さて、予算の行方が注目される次世代スパコン事業について先週のホットな動きを紹介してきたが、これを機に愚直に訴えておきたいのは、国策事業であるだけに、それを推進する側の明快な説明責任と国民の支持が必要だということである。

 確かに、現代の科学技術にとって高速なコンピュータは不可欠だ。半導体や自動車の設計、気候変動の予測、新薬の開発など幅広い分野でスパコンは利用され、国際競争力を高める研究基盤となっている。

 ただ、スパコンなどの科学技術予算は、これまで効果が検証されないまま予算額が膨らんできた。財政が厳しい中、活力のある経済社会を築くために、予算をどう役立てるのか。まさしく日本の成長戦略を問う試金石となる。

 そうした観点から、行政刷新会議の事業仕分けは、それが公開の場で議論されたことに意味があると考える。目先の成果や効率だけにとらわれてはならないが、無駄な予算や改善の余地は少なくない。

 「なぜ世界一を目指すんですか。2位では駄目なんですか」。事業仕分けで議員が放ったこの発言に、ノーベル賞受賞者が「世界一を目指す意気込みでやらないと、2位にも3位にもなれないことを理解すべきだ」と反論。この刺激的なやりとりもあって、事実上の凍結判定を「不見識」と斬り捨てる有識者が少なくなった。

 果たして、そうか。なぜ不見識なのか、事業を推進する側はこれまで国民に分かりやすく説明してきたか。初めて行われた事業仕分けのやり方にも乱暴なところやパフォーマンスとみられるシーンはあったが、こうしたさまざまな論議が目に見える形で出てきただけでも、多くの国民がその本質を考える良い機会になったと思う。

 この問題については、行政刷新会議の事業仕分け以来、多くの報道がなされてきたが、事業仕分けでの評価者のコメント(文科省のホームページに記載)をご覧になっていない方はぜひのぞいていただきたい。十数項目挙げられているが、その中から3つ概要を紹介しておく。

 「10ペタスパコンを開発することが自己目的化している。巨額の税金を投入して世界最高水準のスパコンをつくる以上、大事なのはスパコンを生かして、どのような政策効果を出していくのかを明確にできなければ、国費投入は無理である」

 「ベクトル、スカラーの選択も十分な総括ができていない。この段階で十分な説得力のない世界一という目的だけで、多額の投資をすべきではない」

 「スパコンの国家戦略を再構築すべきである。従来の検討者以外の新しい研究者を入れて、新しい議論を公開しながら行うべき。現状がスパコンの巨艦巨砲主義に陥っていないか。競争のルールが変わってきている可能性はないか。世界の中での位置づけを検討すべき。おそらく日本の先端技術についての国の形を変えるかどうかを検討することになるだろう」

 事業を推進する側は、こうした指摘に対する説明責任をぜひとも果たしてもらいたい。それが事業継続への必須条件だろう。

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プロフィール

まつおか・いさお ITジャーナリストとしてビジネス誌やメディアサイトなどに執筆中。1957年生まれ、大阪府出身。電波新聞社、日刊工業新聞社、コンピュータ・ニュース社(現BCN)などを経てフリーに。2003年10月より3年間、『月刊アイティセレクト』(アイティメディア発行)編集長を務める。(有)松岡編集企画 代表。主な著書は『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。


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