日本のスマートグリッド、だいぶ米国版とは違うなオルタナティブ・ブロガーの視点

米国のスマートグリッド開発には、現在使用可能な電力を有効に使用することで電力不足を乗り切ろうという理由がある。では日本の場合はどうなのだろうか。米国在住のオルタナティブ・ブロガー岸本善一氏が、5つの質問とその回答から推察した。

» 2010年09月22日 14時23分 公開
[岸本善一,ITmedia]

(このコンテンツはオルタナティブ・ブログ「ヨロズIT善問答」からの転載です。エントリーはこちら。)

 インターネットの発展により、情報を取るのが容易になった。でもそのほとんどは間接的なもので、実際に取材するのには比べたら質の面でその足元にも及ばない。

 日本でもスマートグリッドが脚光を浴びている。今年2度ほど小さな集まりで米国のスマートグリッドの話をした。その反響を見ても、興味のレベルは高いと実感した。しかし、聞き手から出た質問やその後の懇親会での会話で、日本のスマートグリッドが何をベースに議論されているのか分らないと感じた。その後もこの問題をフォローしていたが、どうもよく分らない。

 今回東京電力を訪問して話を聞くチャンスがあった。そこで疑問に思っていたことを質問してみた。その分野の専門家から話を聞けるということはすごいことだ。大きな収穫があった。

 主な質問事項は以下の5点。

  1. 日本は電力が十分なのか。
  2. 将来にわたってエネルギー確保に問題は無いのか。
  3. 電気自動車の本格実用が始まっても電力は十分なのか。
  4. スマートメータを設置する理由は何か。
  5. 日本のスマートグリッドはソーラーパネルと電気自動車だけか。

 米国のスマートグリッド開発の主な理由の1つが、現在使用可能な電力を有効に使用することで電力不足を乗り切ろうというものなので、電力供給状態は興味のあるところだ。「日本は電力が十分なのか」という問いについては、一般的に電力不足はないとのこと。もちろん、地震や事故のときを除いてのことだが。

 さらに、1970年代のオイルショックで街からネオンサインが消え、深夜12時にTVの放送が終了して、洗剤やトイレットペーパーの値段が高騰しただけでなく店頭から消えてしまったことを知っている世代として気になる質問をしてみた。マラッカ海峡に有事が生じた際、日本のエネルギー供給は大丈夫なのか。専門家によると、備蓄エネルギーを主としてオイルに依存していた昭和に比較して、今はさまざまなエネルギー源を確保しているので、その心配はあまりしなくてもよいようだ。

 電気自動車の実用化は米国では大問題だ。電気自動車が売れるかどうかの前に、電力供給の問題が横たわっている。一般家庭の1日の電力消費量と電気自動車1台を充電する電力量はほぼ同じだと言われている。米国のごく普通の家庭では数台の車を所有している。筆者の家の両隣も、それぞれ4台ずつある。何しろ高校生ともなると、子どもも車を持っているのだ。そうなると、電気自動車を買って夜充電しようとすると、家庭の電力消費量は一挙に5倍になる。もちろん、一度に全部の車を電気自動車にはしないだろうが。日本の場合は、10年後に100万台、200万台になったとしても、全体の消費に占める割合は1%にも満たず、まったく問題にならないそうだ。

 なんだかますます、日本でスマートグリッドを展開する理由が分らなくなった。では、これはどうだということで、スマートメータの実証実験について聞いたところ、その答えに思わずひっくり返ってしまった。

 米国ではスマートメータに変更される前の“ぼんくら”メータは単に使用量を積算するものだった。そのため、発電コストが時間によって異なってもそれに応じた課金ができなかったし、消費者が電力消費のピーク時に使用を控えるよう、料金体系を利用して誘導することもできなかった。スマートメータ導入理由の1つは、時間帯によって異なる料金を反映させようというものだ。ところが現在の日本の電気メータは、3つの料金体系を反映できるように作られている(ダイナミック プライシング)。つまり、一番電気料金が高い昼間、その次に高い朝と夜、そして一番安い深夜の3つの時間帯で電気代が違うのだ。筆者の家にはスマートメータが設置されているが、ダイナミック プライシングはない。何か皮肉なものを感じる。

 そして最後に、日本のスマートグリッドは電気自動車とソーラーパネルだけかという質問だ。すでに聞いたように、電気自動車はあまり関係ないようだ。だがソーラーパネルは関係する。太陽光による発電は発電量が一定でなく、時間によりばらつきがある。それを配電網に取り込むには、配電網を流れる電力の量を一定に保つためのコントロールが必要となる。また、夜間など発電していない時には、配電網から家庭へと電気を流す必要がある。こういった状況に応じて電気の流れをスムーズに行うために、スマートグリッドは必要だ。現在は配電網につなぐ小規模な太陽光発電だけだが、今後はスケールの大きな太陽光発電を送電線につなぐ場合も出てくるだろう。その際にも、送電網を流れる電力の量のバランスを崩さないためのコントロールが必要となる。

 つまり現段階では、日本のスマートグリッドは、再生可能エネルギーの電力網への取り込みをコントロールするためだけに必要ということになる。今後もこのまま移行するのかは分らない。さらに取材を続けたい。

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