リコーと日本マイクロソフトが打ち出したクラウド利用の新形態Weekly Memo

リコーグループと日本マイクロソフトがこのほどクラウド分野で提携し、中小企業におけるクラウドサービス利用の新形態を発表した。その注目点とは——。

» 2011年02月07日 07時51分 公開
[松岡功,ITmedia]

クラウド展開に全国事業拠点網を活用

 日本マイクロソフトが2月1日、社名を「マイクロソフト」から「日本マイクロソフト」に変更するとともに、本社オフィスを東京の代々木から品川に移した。新本社で記者会見を行った樋口泰行社長は社名変更について、「日本に根ざし、日本の社会に貢献する企業でありたいという思いを込めた」と語った。

 さらに樋口社長は、日本マイクロソフトが目指すべき企業像の1つとしてパートナー企業との密な協業推進を挙げ、ここにきて「会社対会社の信頼関係やソリューション連携がかなり深まってきた」と自信をのぞかせた。

 そうした動きが直近で見られたのが、1月25日に発表されたリコーグループ(リコーおよびリコージャパンを中心とした国内販売関連会社)とのクラウド分野での提携だ。

 内容は、マイクロソフトの企業向けクラウドサービスと、リコーの導入支援サービスなどを組み合わせたソリューションを共同で開発・提供するというもの。その展開において、国内で310カ所の販売拠点、386カ所のサポート拠点を持つリコーグループの業界最大規模の事業拠点網を活用するのがミソだ。

 具体的には、マイクロソフトが提供しているExchange OnlineやSharePoint Onlineなどの企業向けクラウドサービスと、国内約9万事業所への導入実績を持つリコーの中小企業向けITサービス「NETBegin BBパック Select」を組み合わせてソリューション化する。

 これをリコーグループが全国事業拠点網を通じて、導入・設定から保守、ヘルプデスクまでワンストップで提供することにより、中小企業におけるクラウドサービス導入・利用を促進しようというものだ。

 こうした展開を図るため、日本マイクロソフトでは、全国のリコーグループの営業スタッフおよびエンジニア約1万1700人に対し、製品や技術への理解を深めるためのトレーニングを実施するとしている。

 リコージャパンの畠中健二社長は発表会見で、両社の提携について「マイクロソフトのクラウドサービスと、リコーグループの事業拠点網を活用したリアルなITサービスを組み合わせることにより、お客様に進化したクラウドサービスの価値を提供できるようになる。この提携はリコーグループにとっても、たいへん重要でエポックメーキングな出来事だ」と力を込めて語った。

 リコージャパンでは今回の新たなソリューションについて、今後3年間で全国20ユーザーへの提供を目指すとした。これにより、現在年間で約100億円の売り上げがあるマイクロソフト関連ビジネスを、約200億円に倍増させたいとしている。

 提携会見に臨むリコージャパンの畠中健二社長(左)と日本マイクロソフトの樋口泰行社長 提携会見に臨むリコージャパンの畠中健二社長(左)と日本マイクロソフトの樋口泰行社長

Office 365の登場で一気に激戦区へ

 日本マイクロソフトによると、マイクロソフトのクラウドサービスと、リコーグループのような広範囲の事業拠点網を活用したITサービスを組み合わせたソリューション展開は、グローバルでも初めてのケースだという。中小企業ユーザーにとっては、クラウドサービス利用の新しい形態ともいえるだろう。

 日本マイクロソフトの樋口社長は今回の提携の背景について、「クラウド活用のメリットは本来、企業規模や地域に左右されないはずだが、経営者への情報提供不足、IT管理者不在やスキルの不足、地場でのパートナー不足などによって、地方の中小企業ではクラウド活用が進んでいないのが現状だ」との認識を示し、そうした状況の打開に向けて「全国での販売・サポートに実績を持つリコーグループとの協業を通じて、中小企業のクラウドサービス活用を加速していきたい」と語った。

 中小企業向けのクラウドビジネスという観点からみると、今回の両社の提携形態は有効なビジネス推進パターンになるだろう。他の大手ソリューションプロバイダーでも、同様のソリューション提供に向けて準備を進めているようだ。

 そこで1つポイントになるのは、マイクロソフトの企業向けクラウドサービスの今後の展開だ。同サービスは現在、Exchange OnlineやSharePoint Onlineのほか、ユニファイドコミュニケーションの「Lync Online」も用意。今年内には、これらにオフィスソフト群「Office Professional Plus」を組み合わせた新たなクラウドサービス「Office 365」を提供する予定だ。

 今回、リコーグループが日本マイクロソフトと提携したのもOffice 365の登場をにらんだものといえるが、他の大手ソリューションプロバイダーもOffice 365が中小企業向けクラウドビジネスの起爆剤になるとみており、一気に激戦区になる可能性が高そうだ。

 ただ、ビジネスモデルとして本当に成り立つのかどうかは、やってみないと分からない面もある。その意味でも今回の提携のこれからの行方に注目したい。

プロフィール 松岡功(まつおか・いさお)

松岡功

ITジャーナリストとしてビジネス誌やメディアサイトなどに執筆中。1957年生まれ、大阪府出身。電波新聞社、日刊工業新聞社、コンピュータ・ニュース社(現BCN)などを経てフリーに。2003年10月より3年間、『月刊アイティセレクト』(アイティメディア発行)編集長を務める。(有)松岡編集企画 代表。主な著書は『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。



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