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» 2011年05月06日 13時03分 UPDATE

伴大作の木漏れ日:「想定外」という言葉では片付けられない

東電の経営陣は原発に対してどれほどの危機意識を持っていたのか。事故が起きてからでは遅いのだ。

[伴大作,ITmedia]

 まずは、東日本大震災で亡くなられた方々のご冥福を心よりお祈り申し上げます。また、被災された皆様に対し、一日も早く元のような日常生活に戻れることを祈っております。

 さらに、被災者救助や災害復旧に携わる自衛隊や警察、消防、東京電力と協力会社で現地災害に立ち向かっている方々に、その献身的な活動に感謝の念を捧げます。

 それしても、自然=神は不条理なことをする。彼らに何の罪があるというのだ。被災した多くの人たちは、毎日、地道に働き、親の世話をし、子どもの面倒を見てきた。いくら津波の多発地帯とはいえ、これほどの惨状に至るような災害で罰せられなければならないのか。神が下した判断は不条理そのものだ。

 震災発生からしばらくは何も書く気にはなれなかった。1カ月が経過し、少しは冷静に状況を見つめることができるようになった。そこで、今回の災害であらわになった問題点について述べる。

既存の社会インフラは壊滅状態に

 過去に例を見ないマグニチュード9.0の規模の地震と津波が東日本の沿岸を直撃したことにより、当然のように多くの地域が機能停止した。電気、水道、ガスのような社会インフラはいうにおよばず、鉄道、道路、通信(ケータイ、固定電話、パケット通信)などが壊滅した。

 津波は沿岸部一体を飲み込み、多くの自治体で重要な書類(住民票、戸籍謄本、保険関係の原本、不動産登記原本など)が流された。同時にこうした重要なデータを納めていたコンピュータが全壊したり、行方不明になったりした。

 現代社会はコンピュータと通信がなくてはどうにもならない。近くに住む家族の安否を知ろうにもケータイはまったくつながらない。固定電話に至っては電柱が軒並み倒れてしまっている。役所に駆け込んでも津波被害でまったく機能していない。これは警察も消防も同じだ。お金を引き出そうと思っても銀行も被害を受けている。結局、救援を待つしかない。心細い話だ。ユビキタス時代と浮かれていても、実際にひとたび大災害が起きれば結果はこうだ。

 一方で、新しい通信、新しい情報処理系(インターネットとクラウドコンピューティング)は期待した以上の効果を発揮した。固定電話やケータイが発信規制を受け、事実上利用できなかったのに対し、インターネット経由の電話は「Skype」であれ、IP電話であれ、インターネットへの接続が可能であれば十分実用に耐えた。クラウドに関しても、大半のデータセンターが東北地方以外にあったこともあり、無傷といえた。これは技術的な進歩が着実に成果を挙げているということの表れだ。

 官公庁はメインフレームに代表される伝統的なシステムに固執している。もし、多くの自治体でクラウドのような新しいシステムが導入されていたら、どれほどまでに損害が軽減されただろうか。新しいICT技術はBCP(事業継続計画)でも有効だということが証明された。東日本大震災の復興が進む過程で、このような新しいICT技術が導入されることを願っている。

「想定外」どころか「非常識」だ

 震災発生以降、「想定外」という言葉を最も頻繁に使っていたのは、僕が知る限り、東京電力の福島第一原子力発電所の被害に関する発表だった。同じ想定外でも、東日本大震災の直接の被災地と、福島第一原発の近隣地域では事情はまったく異なる。震災の直接被災地は一義的に地震や津波の被害だが、福島第一原発は二次災害なのだ。何人かの関係者が述べているが、原発事故は東電がそれなりの対策をとっていれば防げた災害なのだ。

 電源が失われたというが、実際にいくつかの電源系統が生き残っていても、恐らく事故は防げなかった。なぜなら、発電所内の変電設備や送配電設備がすべて津波で破壊されたので、どんなことをしても電気を必要な機器に送れなかったからだ。

 さらに、緊急炉心冷却装置(ECCS)の主役である非常用ポンプ設備を動かすモーターも原子炉の海側に隣接するタービン建屋に設置されていたため、津波の被害を受け正常な運転が期待できない状態だった。非常用ディーゼル発電装置もいくつか用意されていたが、そのすべてが塩水につかり動かなかったという。

 コンピュータの世界では、非常時に備えて重要なサーバには無停電電源装置(UPS)を搭載するのが常識であり、サーバが1台壊れてもバックアップが可能なように冗長化構成する。東電の場合、肝心の機器が津波に襲われた場合を想定し、多重化を考えていなかったのだ。これは想定外という以前に「非常識」の謗りを免れない。

なぜ問題に対峙しなかったのか

 このように発電、送電、変電の主要設備に損害を受けるということを東電の経営陣が想定していたかは甚だ疑問だ。恐らく、既に報じられているように、経営陣に当初の危機的な状況は伝わっていなかったのではないだろうか。

 原発が建設されて以来、こうした危機管理の問題に対処する機会は何度もあっただろう。しかし、これまで誰もその問題に対峙しなかったことが今回の事態の本質ではなかろうか。

 どこまで現経営陣が福島第一原発の危険性を認識していたかは定かではないが、建設から40年、既に寿命だといわれていた原子炉自体が大きなリスクだったはずだ。本来なら今後の運用について何度も議論と対策を重ねていなければならなかったが、実際には事前に何の対策も取らなかったことを今回の原発事故は露呈した。

 その結果、東電は見るも無残な状況に陥った。同社にとって最も重要な責務である、電力の安定供給は今回の災害で目も当てられない状況になっている。現経営陣はリスク管理ができていなかったばかりか、事業存続という観点でも失格だ。

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