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» 2011年11月24日 12時00分 UPDATE

コミュニティー運営の要諦:@Shumpeiに聞く――アジャイルに進化する場の作り方

4000人を超えるメンバーが集う非営利コミュニティーはどのような信念で運営されているのか――「html5j.org」管理人の白石俊平さんが語るギスギスしない場の作り方とは?

[鈴木麻紀,ITmedia]

 「html5j.org(旧HTML5 Developers JP)」は、2009年7月に発足したグーグル認定の準公式コミュニティーで、2011年10月現在4000人強のメンバーがいる。「HTML5とか勉強会」は、html5j.org管理人の白石俊平さんが運営する勉強会。HTML5や周辺技術に関する勉強をインフォーマルな形式で行おうと小さく始めたものだが、23回を数えた現在は、定員の100名が常に満員御礼という盛況ぶりだという。

いいコミュニティーを作るのはいい文化

201111_shiraisisyunpei1.jpg 「html5j.org」管理人兼、「HTML5とか勉強会」主催 白石俊平さん。 くしゃくしゃっとした笑顔が可愛い。

 コミュニティーには「文化」と「目的」の両方が必要だと白石さんは話す。

 HTML5とか勉強会のスタッフは現在10数名。最初のスタッフがとてもいい人たちだったので、いい文化の空気ができたそうだ。「僕が心掛けているのは、あいさつをキチンとしようにしようということです」。スタッフ同士がうまくやっていくために大切なのは互いを尊重し合うこと。そのためにも「礼儀正しく」することは、普通の生活以上に大切だ。

 白石さんは20代のころ、ギスギスした職場で働いたことがあるという。自分の成果を最優先に考え、周囲の人を慮らない環境。いや環境だけでない、彼自身も人を「できる/できない」で判断するところがあったという。

 ギスギスした文化はもう嫌だ。そう考えた白石さんは「問題は自分にある」と思うことにした。なぜなら「その方がコントローラブル」だからだ。

 では自分をどう変えたら、ギスギスしない文化や組織を作れるだろうか。それを実践する場がコミュニティーの運営だったと白石さんは振り返る。自分から情報発信したり、メンバーとコミュニケーションをまめにとったり、良いと思ったことを行った。そうこうするうちに勉強会が忙しくなり、スタッフみんなと運営を共に行う中で、仕事をスタッフにお願いする機会が増えてきた。

 「スタッフには命令も強制もできない。そんなことをしたら、みんな離れてしまいます」。かつての自分は怒鳴ったり命令したりすることこそなかったが、人に何かを頼むときに相手に圧力やプレッシャーをかけることもあったと言う。仕事はそれでもいいかもしれないが、ボランティアであるスタッフにはそのような行為は禁じ手だ。ではどうすればギスギスせずに仕事をしてもらえるのか。本気で悩み行動するうちに、なんとなく分かるようになってきたそうだ。

 「カーネギーの著作『人を動かす』が、しっくりくるようになってきたんです」。そこには『褒めろ、おだてるな』と書いてあるという。その意味が今なら分かる。人に心から感謝すること、本気でほめること、それができるようになってきた。少なくともそれがなぜ大切なのかを彼は理解できるようになった。

誰かがビジョンを打ち出すべきだと思った

 コミュニティーの目的とは、何のために集まっているのかということ。そう、志だ。html5j.orgはこの目的を明確にするために、「つながる」「学べる」「盛り上がる」という合言葉を作り、その具体的な内容をWebサイトに公開している。

 合言葉を作ろうと思いはじめたきっかけの1つは、ある問題意識だった。

 コミュニティーの規模が大きくなるにつれ営利企業からのさまざまなアプローチが来るようになった。しかし当時の白石さんは、それらをすべて断っていた。そんなある日「自分はなぜ、すべてのオファーを断っているのだろう」と考えたという。

 そして気が付いた。「すべてを無差別に断っていたのはコミュニティーの『アイデンティティ』がはっきりしていなかったから。何が白か黒か判別がつかなかったから、すべて平等に断るしかなかった」。そこから、コミュニティーのミッションを立てようということになった。合言葉作成にあたっては、たくさんの案をベースにメンバー間で投票や話し合いが重ねられた。そして最後は白石さんが決めた。

 「誰かがビジョンを打ち出すべきだと思った」。互いを尊重しあうことを旨とコミュニティーであるにもかかわらず、なぜこの瞬間はひとりで決めたのかという筆者の問いに、白石さんは答えた。「多数決が必ずしも最善とは限りません。組織の方向性を決定づける決断には誰かの『強い意志』が必要で、それをするのはリーダーである僕の役目だと思ったのです」。

 もちろんその前提には、きちんと議論を重ねること、議論を重ねたことが誰の目にも明らかであること、却下する意見には理由を示すことなどが必要で、それらをすべて行い、議論を全部ふまえたうえで、誰かが「こういう理由でこういう風に決めます」と方向性を打ち出す、それが最良の意思決定手段だと今は思うそうだ。

リーダーに必要なお願いスキル

 普段の自分はまったくリーダーっぽくない。勉強会の司会や幹事などの表舞台はできるだけスタッフに任せて、自分はバックアップに徹しようとする。前述のような組織の方向性を決めるときやいざというときは前面に出るが、通常は自分で抱え込まずに積極的に「お願い」するのだと白石さんは話す。

 「人に上手にお願いできる『お願いスキル』は大切です」。相手の事情と自分の事情を考慮に入れて上手にお願いできたときは、相手も自分も気持ちよく仕事を分担できる。それにより最良の結果を引き出せたことが何度もあるという。

 「html5j.orgの新しいWebサイトを作るときは、稲田さんというデザイナーに『自由にやってください。それがこちらの要望です』とお願いしたら、本当に素敵なページを作ってくれました」。

 こうした、信頼関係に基づく作業の分担を続けていった結果、コミュニティーの中に新たなリーダーが生まれつつあるのも予想以上の成果だ。

 「HTML5とか勉強会の20回目はグーグルとの共同カンファレンスで、かなり大規模なものになりました。でもスタッフの小松さんと吉川さんがリーダー的な役割を担ってくださって、イベントは大成功に終わりました。あのイベントでは、僕はむしろ雑用程度のことしかしていません」。

201111_shiraisisyunpei3.jpg html5j.orgのWebサイト 稲田さんがデザインリニューアルを全面的に担当してくれた

 人に正しくお願いするにはポイントがある。まずは「問題を自分で把握していること」。何が自分ではできないのかをちゃんと理解していると、適切に人にお願いできる。次に「どこまでお願いするかを決めること」。問題に対する解決策は自分で考え解決までの道程のみをお願いするのか、解決策を決めることも含めてお願いするのか。

 相手のメリットを考慮することも大切だ。例えば相手にとって少しチャレンジングな内容をお願いすると、経験にもなるし楽しんで取り組んでもらえることが多い。「僕の問題を解決してほしい。それに当たっては、あなたにはこれだけのメリットがあると考えている」。自分のことを心から配慮してくれる人が本気でお願いしている、そう感じたらよしやってやろうじゃないかと思えてくるのではないか。

 そして「助けて」と素直に言えること。これが上手な人が周りに何人かいて、見習いたいそうだ。

ルールが組織を作り、文化を作る

201111_shiraisisyunpei2.jpg 白石さんは「読書するエンジニアの会」と「しろうと哲学部」という勉強会も主催している。読書するエンジニアの会はただの読書会にとどまらず、書店とコラボレーションするなどの広がりを見せている。「いろいろな場を作ることが楽しいんです」

 いい組織(コミュニティー)作りは、いいルール作りだと白石さんは断言する。ルール作りは立法であり、組織の設計の根幹であると考えるからだ。

 白石さんが考える「いいルール」は、リーダーが頭の中で考えて正解を示すものではない。組織が大きくなるにつれて必要に応じて発生するもの、走りながらできてくるものだ。「僕がこれまでやってきたコミュニティー作りは、なんとなく始めてだんだん形ができてくる、システム開発的にいえば『アジャイルに仕様が決まって』きたものです」。ルールは最小限にとどめる、だからこそそのときどきのメンバーが本当に必要なものがルールになっていく。

 ルールは自分たちを守るためのものでもある。最近読んだ社会学の本の中に「ルールなきところに自由はない」という言葉があったそうだ。ルールがあるからこそ安全でいられるし、ルール以外のところに目を向けたり時間をさいたりできる。

 白石さんは最近読んだ本でもう1つ、印象に残った言葉がある。経済学者ハイエクの「自生的秩序」だ。組織のメンバーひとりひとりから自然発生的に形成される秩序が積み重なっていく状態のことだという。秩序はやがて文化や伝統になっていく。「ルールが組織を作り、文化を作るんです」。自生的秩序が生まれるような場を作ること、それが白石さんの目標だ。

白石俊平さんのコミュニティー運営のポイント

  • いい文化はお互いを信頼し、尊重しあうことで生まれる
  • リーダーは裏方、表舞台はどんどんスタッフにお願いする
  • 組織の方向性を決める決断はリーダーがする
  • いい組織作りは、いいルール作り。状況に応じて適切なルールを作りつづける

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