国産ソフトウェアの海外進出をリードする「野茂投手」を生み出したい――MIJS 美濃理事長日本品質を世界に

国内のソフトウェアベンダー69社が加盟するMIJSコンソーシアム。2012年4月に理事長に就任した美濃和男氏にこれまでの実績と今後の展望を聞いた。

» 2012年11月12日 08時00分 公開
[編集部,ITmedia]

国内外に「日本のソフトウェア」の優秀性を示す

MIJS理事長 美濃和男氏(株式会社エイジア 代表取締役)

 国内の有力ソフトウェアベンダーが結集し、国内ビジネス基盤の強化と海外展開を推進することを目的とし2006年8月に設立された「メイド・イン・ジャパン・ソフトウェア(Made In Japan Software)コンソーシアム」(以下、MIJS)。MIJSの活動の目的は、ソフトウェアベンダーの側からビジネスに対するITの顧客満足度に応えるため、市場で求められるソフトウェアの製品間連携によるシステム基盤を構築し、国内および海外に向けて「日本のソフトウェア」に対する優秀性の認知度向上や市場におけるビジネス基盤の強化を図ることにあるという。特に、日本のソフトウェアの優秀性を国内外に一層広く知らしめたいという思いを会員共通の理念としている。

 そんなMIJSも発足して6年余りが経ち、今年4月にはエイジア代表取締役の美濃和男氏が新理事長に就任した。あらためてMIJSの理念や目的に変わりはないのか。そう美濃氏に聞くと、「今もまったく変わりはありません」という答えが即座に返ってきた。

 「日本のソフトウェアが優れている点はものづくりとしての繊細さと品質へのこだわりです。これらは日本人のDNAによるものかもしれませんが、ソフトウェアでは、痒いところに手の届くようなきめ細かい機能や人に優しいユーザーインタフェース、行き届いた保守メンテナンスなどに反映されています。品質面では、海外製品で『動けばよい』と割り切ったものも見受けられますが、国産製品では最大限の向上に努めます。私はそうした日本のソフトウェアの優秀性が、国内のみならず海外でも、もっと認められるようになると確信しています」(美濃氏)

 では、海外での認知を向上するためには何が必要なのか。美濃氏は「最も必要なのは、マーケティング力を強化すること」と言う。

 「いくら優秀な製品を開発しても、販売やブランディングなどを合わせたマーケティング力が弱いと、海外ベンダーと真っ向から戦うことはできません。マーケティング力を強化して、日本のソフトウェアの優秀性を海外にも一層広く知らしめたい。MIJSとしてこの思いはますます強くなっています」(美濃氏)

3つのテーマを掲げてエネルギッシュに活動

 美濃氏が語るそうした思いを実現すべく、MIJSは今、「海外展開」「製品技術強化」「プロダクトビジネス推進」という3つのテーマを掲げ、それぞれに委員会を設けてエネルギッシュに活動している。

 海外展開委員会においては、海外でのマーケティングや流通のノウハウ、国内外のアライアンスを構築するための活動を行っている。海外展開はとくに中国および東南アジアでの活動を積極的に進めており、それぞれの国や地域の有力なIT関連団体ともアライアンスを構築し、共同事業を推進している。

 「私自身も理事長に就任してからの半年ほどで、これらの国や地域に4度出張する機会がありました。MIJSの活動が広がっているのを実感しています」(美濃氏)

 製品技術強化委員会では、会員企業のエンジニアが集まり、設定されたテーマに関して共同で調査、検証、学習を進めている。MIJS発足時から取り組んでいた会員企業各社の製品の連携を図るための技術基盤が整備できたので、今後はその応用とともに、ビッグデータの活用やユーザビリティの向上など旬のテーマに関して調査・検証を行っていく構えだ。

 「この分野の活動では、各社の“とがった”エンジニアたちが腕を競っているところもあり、お互いに刺激し合って技術を高めるといった効果も、私は大きな収穫であると思っています」(美濃氏)

 プロダクトビジネス推進委員会では、ソフトウェアプロダクトやITサービスの利用促進、販売増強、そして経営力やマーケティング力の向上を図る活動を行っている。

 その一環として取り組んでいるのが地方におけるソフトウェア産業の育成だ。具体的には地方でセミナーなどのイベントを開催し、MIJSの活動やソフトウェア事業の魅力を説明してまわっているという。地方に注目する理由を美濃氏はこのように説明する。

 「ソフトウェアの開発作業はロケーションフリーなので本来は中央でなくてもよいのです。むしろ自然の豊かなところで開発したほうが、画期的なものが生まれるかもしれません。それに優秀な人材を発掘できる可能性もあります。さらに地方の活性化にもお役に立てるでしょう。こうしたオールジャパンの力を結集すれば、日本のソフトウェアの優秀性をもっと高めることができると確信しています」(美濃氏)

生産性向上へつながるMIJSの活動の意義

 美濃氏の発言に「人材」という言葉があったが、MIJSでは新入社員の合同研修を実施するなど人材育成にも力を入れている。MIJSの会員企業は中堅・中小規模が大半で新入社員も少数なため、教育プログラムが整っていないのが実情であるため、会員企業からも大きな期待を寄せられている。

 そこで、最近ではMIJSが共通の教育プログラムを用意して合同の研修を実施している。会員企業はソフトウェアベンダー同志ということもあり、業態は似通っている。そのため異なる企業の新入社員であっても実践に即した研修を行えるのが利点だという。美濃氏は、この新入社員の合同研修が好評なので、次は中堅社員の合同研修を企画しており、こちらも実践的な内容にできると期待しているという。

 「ただ、中堅社員の場合は研修の内容もさることながら、先ほどお話しした“とがった”エンジニアたちと同様、お互いに刺激し合ってスキルを高める効果が非常に大きいと考えています。実は、この効果はMIJSの活動を共にしている経営層の人たちも同じです。私自身、MIJSの活動に参加して多くの刺激を受けたので、この効果は本当に実感しています」(美濃氏)

 美濃氏はその効果を生産性の向上と位置付ける。

 「個人個人が強い刺激を受けることが、ひいては組織の生産性の向上につながるのです。この点が、MIJSの日々の活動の最大の意義だと、私は確信しています」(美濃氏)

目的達成のために求められる3つのパワー

 このところ、会員数も着実に増えつつあるMIJS。発足して6年余りが経った今、その存在価値は広く認められるようになったと美濃氏は語る。今後は先に述べた「海外展開」「製品技術強化」「プロダクトビジネス推進」の3つのテーマに則った取り組みをさらに拡充していくという。

 「私の強い思いとしては、MIJSの理念に基づいて、世界で成功したと誰もが認めるようなソフトウェアプロダクトベンダーをMIJSから生み出したいです」

 そこで美濃氏が挙げたのが米国のメジャーリーグで日本人選手として初めて大活躍した野茂英雄投手の名だ。

 「野茂投手の素晴らしいところは、本人の実力もさることながら、その後、メジャーリーグで活躍する日本人選手を輩出する道を切り開いたことにあります。2012年10月現在、MIJSには69社が加盟していますが、その中から野茂投手のような先駆者を生み出すことができれば、多くの日本人選手が活躍する今のメジャーリーグのように多くのベンダーがあとに続くようになるでしょう」と強調した。

 では、そうした状況を実現するためには、何が必要となるのか。美濃氏は先に、海外でもっと認められるようになるにはマーケティング力を強化する必要があると指摘しているが、ほかに注力すべき点があるとすればどのようなことだろうか。

 「必要な要素は3つのパワーに集約されると思います。まず1つは、先にお話しした『マーケティング力』。あと2つは、『技術力』と『経営力』です。これら3つの力については、MIJSとしても個々の会員企業としても磨いていく努力をしなければなりません。MIJSとしては、各委員会の活動をさらに強化し、対応していきたいと考えています。ただ、自らの会社が野茂投手のような存在になるには、ライバルでもあるMIJS会員企業との競争に打ち勝たなければなりません。それはどの経営者も覚悟していることです。しかし、それでもMIJSの仲間として理念を共有しているからこそ、お互いに切磋琢磨できるんですね」(美濃氏)

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