先代が築いた高速データ処理技術でビジネス拡大を図る高速屋田中克己の「ニッポンのIT企業」

「競合の100倍速いデータ処理ソフトを開発した」と力説する高速屋の新庄社長。市場に向けてどう売り込んでいくかがチャレンジだ。

» 2013年02月05日 08時00分 公開
[田中克己(IT産業ウオッチャー),ITmedia]

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 「競合製品の約100倍速いデータ処理を実現するソフトを開発した」。データ処理エンジンをコア技術に事業を展開する中小IT企業、高速屋の新庄耕太郎社長はこう自慢する。その技術を事業拡大に生かすため、最近はサーバやBI(ビジネスインテリジェンス)ツールなどのIT企業と手を組んで、大量データを処理、分析するビックデータのニーズに応える低価格な商品を用意する。

競合製品の100倍速いインメモリ型DB

 高速屋は新庄社長の父、敏男氏が2002年に創業した。オラクルなど欧米製データベース(DB)が市場を席巻する中で、「『処理速度が10倍速いものを出せば、ビジネスになる』と思った父が高速データ処理ソフトの研究開発に取り組んだ」(新庄社長)。結果、TCPベンチマークで既存製品の100倍近い処理性能を確認したが、事業化には資金が必要になる。

 そこで、「父は富士ソフトの野澤宏会長に『DB事業を一緒にやりましょう』と働きかけて、出資をしてもらった」(新庄社長)。システムとしての機能やマーケティングなどの問題から、今のところ、約16%の株主という関係にとどまっている。その後、自動車部品のデンソーとDBの要素技術を駆使したカーナビの検索エンジンの開発で関係を持ち、同社にも約12%を出資してもらう。

 事業は順調に推移し、売上高約5億5000万円、社員20数人(協力会社を含めると約40人)の規模になった。主力製品のインメモリ型データベースは、スポーツ用品専門店のアルペンなど約25社(OEMを含めると約50社)に導入されている(2012年12月時点)。その多くが、特長のあるITベンチャーの製品を使って競争優位を確保しようとするユーザーだという。アルペンの場合、2年がかりで商品や在庫、販売などのデータを瞬時に検索、分析するシステムを実稼働にもっていったそうだ。

 だが、販売実績の少ない先端技術を取り入れようとするユーザーはそう多くはないだろう。「欧米ITベンダーの有力製品なら導入に失敗しても責任を問われないが、ITベンチャーの製品でうまくいかなかったら問題視される」と慎重になるIT部門の責任者はいる。信用力もブランド力もないITベンチャーの製品を採用するのを躊躇するのは、当然のことかもしれない。事実、「『欧米ITベンダー製品より100倍速い』とユーザーに売り込んでも、『だから、どうなのか』と言われてしまう」(新庄社長)。ユーザーは単体の性能だけを評価するわけではない。マーケティングやアライアンスにも課題があったという。

ビジネス創造の時代へ

 そんな中で、新庄氏は父の死去に伴って、2010年9月に社長に就任した。36歳だった。「創業から勤めていたが、チームリーダー的な立場で、経営のことは分からない。父のようなスーパープログラマーでもない」(新庄社長)。そこで、新庄社長は先代が築いた創業から2010年までを、DB関連のコア技術を体系化した「技術創造の時代」とし、自らが経営のかじ取りをする2011年以降を「ビジネス創造の時代」と位置付けた。蓄積した高速データ処理技術をビジネスにつなげていく作戦を展開するということだ。

 具体策の一つは、欧米製品と真っ向から勝負するのではなく、国内外の有力なITベンダーやIT企業との協業関係を築くこと。2012年5月に発表した米シスコシステムズの日本法人が販売するサーバに高速データ処理ソフトを組み合わせた製品を発売したのはその一例で、ビックデータに対応する高速データ処理の需要に応えていくものだ。

 加えて、「営業力が弱い」(新庄社長)ことを補うために、サーバやミドルウェア、分析ツールをセットしたソリューションを用意し、IT企業がカスタマイズや付加サービス、教育などで収益を稼げるようにする。販売チャネルが売りやすいソリューション商品の品ぞろえするために、日本エムツーソフトの帳票作成ツール、GISのExcelアプリケーション作成ツール、ダイナトレックのBIツールと組み合わせたセット製品も用意した。汎用PCサーバ1台か2台で、300ギガバイトから400ギガバイトのデータ分析を可能にする安価なシステムも開発中だ。中堅企業をターゲットにし、価格は競合のアプライアンス製品の5分の1以下に抑えることを予定する。

 高速屋は、こうした大容量データをリアルタイムに高速データ処理に関連する特許を国内25件、米国12件、欧州7件、中国8件を保有する(2012年12月時点)。中小IT企業がこれほどの特許を取得しているのは珍しいこと。「独自技術を売りにする会社なので、特許に費用をかけてきた」(新庄社長)。その知的財産も新たな収益源にする。残念なことに、「日本企業の関心は薄い」(同)ビックデータ時代に求められる同社の技術力に気付いているのは、海外企業ということのようだ。


一期一会

 「父はデータ構造、アルゴリズム、実装などの技術も一から作り上げて、約20万行のソースコードを1人で書き上げた。」。新庄社長は創業者の父、敏男氏を尊敬する。その一方、「経営力も技術力も父に劣る」と謙虚に語る。新庄社長が「ビジネス創造の時代」という考え方を打ち出した背景といえる。

 高速屋には「カリスマ技術者の父に魅力を感じて入社した技術者がたくさんおり、当社の技術レベルは高い」(新庄社長)。基礎DB技術や高速技術などで、競合他社を凌駕するものを開発してきたが、「シーズで突っ走ってきた」。そうした技術をビジネスに積極的に結びつけるのが、新庄社長の役割になる。「もっと世の中に当社を知ってもらう」ために、マーケティングにも力を注ぐ考えだ。成長への針路ははっきりした。

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