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» 2013年04月10日 08時00分 UPDATE

新しいマーケティングの潮流:ソーシャル時代のストーリー・マーケティング【前編】

共感を重視したストーリー・マーケティングの手法が、広告宣伝の世界において一定の効果を生み出している。一方で、ソーシャル・テクノロジーの台頭により、ストーリー・マーケティングに新たな展開の可能性が浮上してきている。

[内山悟志(ITR),ITmedia]

ストーリー・マーケティングとは

 大量消費の時代が終焉し、「モノ」そのものに価値を見出してきた時代から、モノの先にある「コト」へと価値が移り変わり、さらに「コト」に対する「共感」が重視される時代へと消費トレンドは進化してきた。その共感が喚起される最も自然な方法、それがストーリー(物語)を活用したコミュニケーションであるといえよう。

 ストーリー・マーケティングとは、商品やサービス、あるいは企業などのブランドに対して、そのものの性能や機能における優位性、価値を訴えるのではなく、体験や世界観といった情緒的な付加価値を訴求することで共感を生み出すマーケティング手法である。物語マーケティングなどと呼ばれることもあり、日本国内においても1990年代から、広告代理店やマーケティング・コンサルタントなどがその有効性に注目していた。多くの消費者は、既に必要なものを持っており、単に商品が優れているから、価格が安いからといった理由だけで購買行動が喚起されなくなってきている。従って、ストーリーへの共感により需要を創造することへ期待が寄せられることは容易に理解できよう。

 一方、これまでストーリー・マーケティングは、テレビCMなどマスマーケティング向けの広告宣伝において実践されるにとどまっていた。企業のビジョン、商品のコンセプト、モノづくりへのこだわり、商品/サービスの活用シーンなどを、CM出演者がストーリー仕立てで演じるもの、開発秘話や製造プロセスなどを紹介するもの、実際の企業の従業員が登場するものなど、昨今の映像広告で多用されている訴求テクニックといえる。確かに、こうした手法は単に商品の良さや価格の安さを連呼する宣伝手法よりも、共感と共鳴を促すものであり、ブランドを構築する上で有効な手法と考えられる。

 しかし、これらの取り組みはメッセージを伝える側の視点で制作されているという点で、従来のマーケティング手法の域を出ていないといえる。コトラーの唱えるマーケティング3.0では、参加と協働が重要な要素であり、企業から消費者への一方通行のコミュニケーションには限界があるとされている。

ソーシャル技術がもたらす変化と進化

 参加と協働は、ソーシャル・テクノロジーが最も得意とする領域といえる。企業がソーシャル・テクノロジーを活用することで発信者となり、商品のコンセプトや商品/サービスの活用シーンなどをストーリー仕立てで紹介することも可能である。多くの企業において広報宣伝担当者が、SNS上に企業名あるいはブランド名、キャラクター名のアカウントで情報発信を行ったり、スポンサー広告ページを掲載したりしている。こうした取り組みにより、企業と消費者、および消費者同士の双方向のコミュニケーションが促進される点では一歩前進といえる。しかし、これは企業からの情報発信を起点としているという点で、前述のマスマーケティング向けの広告宣伝で実践されている従来の手法と大きな違いはない。

 売る側の立場の企業が自社の製品/サービスの優位性を訴えることよりも、著名人や友人が買う側の立場でコメントを発信するほうが、信憑性や親近感という点で大きな効果が生まれることは疑う余地がない。ソーシャル・テクノロジーがストーリー・マーケティングを実践する上で有効な手段となるのは、この点にある。

図1 マーケティングの進化の2つの方向性(出典:ITR) 図1 マーケティングの進化の2つの方向性(出典:ITR)

 また、インターネット上には情報が氾濫しており、購買者が自分の欲しい情報を探し当てることは容易ではない。さらに、購買者は自らキーワード検索などにより能動的に情報を探し回るだけでなく、著名人や専門家による連載コラムなどの一般的な読み物を読んだり、友人の書き込みやつぶやきなどを見たりすることによって、特に意識することなく共感と共鳴が促され購買意欲が掻き立てられることも珍しくない。このように、企業やブランドの価値を増大させたり、創造したりする協力者をインフルエンサーと位置付け、インフルエンサーを活用して共感の連鎖を形成する一連の活動はソーシャル・インフルエンス・マーケティングまたはインフルエンサー・マーケティングと呼ばれている。

 ソーシャル・テクノロジーを活用することで、マーケティングは2つの方向で進化を遂げようとしている(図1)。1つは、情報伝搬の方向性における進化であり、一方通行から双方向へ、さらに縦横無尽へと向かっている。もう1つは、訴求する価値における進化であり、機能的価値から、活用シーンやメリットの訴求を経て、感動に向かうものである。

 次なるマーケティングの進化は、ストーリー・マーケティングとインフルエンサー・マーケティングの融合であり、これをITRではソーシャル・ストーリー・マーケティングと呼んでいる。ソーシャル・ストーリー・マーケティングとは、ソーシャル・テクノロジーの持つ情報の伝搬性と増幅性を活用して、企業、ブランド、商品/サービスに対する体験や世界観といった情緒的な付加価値を訴求することで、共感の輪を広く縦横無尽に連鎖させることと定義付ける。

 後編では、ソーシャル・テクノロジーを活用して、ストーリー・マーケティングを強化するための具体的な手法などをお伝えする。

著者プロフィール

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内山悟志(うちやま さとし)

株式会社アイ・ティ・アール(ITR) 代表取締役/プリンシパル・アナリスト

大手外資系企業の情報システム部門、データクエスト・ジャパン株式会社のシニア・アナリストを経て、1994年、情報技術研究所(現ITR)を設立し代表取締役に就任。ガートナーグループ・ジャパン・リサーチ・センター代表を兼務する。現在は、IT戦略、IT投資、IT組織運営などの分野を専門とするアナリストとして活動。近著は「名前だけのITコンサルなんていらない」(翔泳社)、「日本版SOX法 IT統制実践法」(SRC)、そのほか寄稿記事、講演など多数。


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