捲土重来を期す富士通とNECWeekly Memo

富士通とNECが先頃、2012年度の連結決算を発表した。今後の成長に向けて“捲土重来”を期す両社だが、あらためて共通する課題も浮かび上がってきた。

» 2013年05月07日 08時00分 公開
[松岡功,ITmedia]

B2BのICT事業は堅調に推移

 富士通とNECが先頃、相次いで2012年度(2013年3月期)の連結決算を発表した。富士通は減収減益で最終損益が前年度の黒字から赤字に転落した一方、NECは増収増益で最終損益が前年度の赤字から黒字に転換した。

 ただ、両社ともここ数年、不振の半導体や携帯電話関連事業の整理をはじめとした構造改革に追われており、1年ずれて同様の現象が起きたという印象だ。その意味では、両社とも今後の成長に向けて“捲土重来”を期す決算といえる。

決算会見に臨む富士通の山本正已社長 決算会見に臨む富士通の山本正已社長

 富士通が4月30日に発表した2012年度の連結業績は、売上高が前年度比1.9%減の4兆3817億円、営業利益が同9.5%減の952億円、経常利益が同15.7%増の1054億円、最終損益が前年度427億円の黒字から729億円の赤字になった。

 一方、NECが4月26日に発表した同業績は、売上高が同1.1%増の3兆716億円、営業利益が同55.5%増の1146億円、経常利益が同2.2倍の920億円、最終損益が前年度1103億円の赤字から304億円の黒字となった。

 全体の業績では明暗を分けた格好の両社だが、主力の企業向けを中心としたB2BのICT事業はいずれも堅調だ。同事業に相当するセグメントの業績を見ると、富士通はテクノロジーソリューションで売上高が前年度比0.3%増の2兆9423億円、営業利益が同5.6%増の1809億円と増収増益になった。

 NECもITソリューションで売上高が同4.8%増の1兆2458億円、営業利益が同47.5%増の661億円、キャリアネットワークで売上高が同7.5%増の6477億円、営業利益が同24.7%増の631億円と、回復基調にあることを示した。

 両社ともこの企業向けを中心としたB2BのICT事業の堅調ぶりが、捲土重来を期す原動力になるのは明らかだ。では、両社は2013年度(2014年3月期)の連結業績をどう見通しているのか。

 富士通は、売上高が前年度比3.8%増の4兆5500億円、営業利益が同46.9%増の1400億円となり、最終損益も450億円の黒字に転換すると予想。このうち、テクノロジーソリューションは売上高で同5.4%増の3兆1000億円、営業利益で同5.0%増の1900億円を見込んでいる。

 富士通の山本正已社長は国内ICT市場の状況について、「当社の直近の受注状況から見ても堅調に回復している」とし、同社の垂直統合ビジネスモデルを生かした競争力のある新商品を順次投入することで、「国内ICT市場でダントツを極めたい」との意気込みを語った。

両社に求めたい売上拡大への気迫

 一方、NECの2013年度連結業績は、売上高が前年度比2.3%減の3兆円、営業利益が同12.8%減の1000億円、最終損益も同34.3%減の200億円となる見通し。携帯電話関連事業の整理が減収要因となる。このうち、ITソリューションは売上高で同1.1%増の1兆2600億円、営業利益で同5.9%増の700億円、キャリアネットワークは売上高で同0.4%増の6500億円、営業利益で同12.9%減の550億円を見込んでいる。

決算会見に臨むNECの遠藤信博社長 決算会見に臨むNECの遠藤信博社長

 NECは今回の決算発表で、2015年度(2016年3月期)を最終年度とする中期経営計画(中計)も明らかにした。数値目標として掲げたのは、売上高3兆2000億円、営業利益1500億円、最終損益600億円(いずれも連結)。さらに同社の遠藤信博社長は、「売上高営業利益率5%、海外売上比率25%を早期に達成したい」と強調した。

 遠藤氏はこの中計の注力分野として、「社会ソリューション事業」と「アジア市場」を挙げた。特に「パブリック」「テレコムキャリア」「エンタープライズ」「スマートエネルギー」からなる社会ソリューション事業は、NECが持つ技術力やソリューションを生かして大きく貢献できる分野だという。

 同社では売上高比率で2012年度に6割だったこの分野を、2015年度には7割に拡大するとともに、売上高営業利益率を8%に引き上げたいとしている。

 ただ、この中計で遠藤氏が掲げた売上高営業利益率5%、海外売上比率25%という目標は、実は2012年度を最終年度とした前の中計と全く同じで、2012年度の実績はそれぞれ3.7%、15.7%にとどまっている。

 遠藤氏はこの点について、「前の中計では4兆円の売上規模を確保すべく海外事業の拡大を図ったが、うまく展開できなかった。加えて、東日本大震災やタイの洪水被害、欧州危機などの外部環境の変化に財務体力が追いつかなかった」とし、「新たな中計では3兆円の売上規模でもしっかりと収益を生み出せる体質づくりを目指したい」と強調した。

 NECの中計に関するさらに詳しい内容は、既に報道されているので他稿に委ねるとして、ここでは今回の富士通とNECの決算発表を取材して感じた共通の課題を挙げておきたい。

 それは一言でいうと、売上拡大への気迫である。先述したように両社ともここ数年、構造改革に追われてようやく捲土重来を期すところまで来たのは承知の上だが、いずれもピーク時には5兆4000億円前後あった連結売上高が、現状で富士通は4兆3000億円台に、NECに至っては3兆円そこそこにまで縮小してしまった。何とも寂しい限りである。

 グローバル市場に目を転じると、企業向けを中心としたB2BのICT事業を主力とするベンダーには、IBM、HP、Oracleといったメジャープレーヤーが激しいバトルを繰り広げている。富士通とNECはそれぞれ一部の領域で協業関係もあるが、両社ともこれからグローバル市場へさらに打って出ていくためには、これらメジャープレーヤーと真っ向から張り合っていく必要がある。その鍵を握るのが、売上拡大への気迫のように思えてならない。

 富士通とNECには、ぜひとも気迫をもってワクワクするような成長戦略を描いてもらいたい。

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