持続型成長経営に向けてビッグデータ活用に挑む小田急活用とセキュリティの両立にも配慮

沿線人口がピークを迎えつつあると予想する小田急グループ。少子化や人口減などによる経営環境の変化に立ち向かうべく、ビッグデータ活用に向けた経営情報システムを構築している。

» 2014年02月27日 08時00分 公開
[國谷武史,ITmedia]

 新宿を起点に神奈川県の小田原や江の島、都内郊外の多摩ニュータウンを結ぶ大手私鉄の小田急電鉄。グループ内には箱根登山鉄道や江ノ島電鉄、神奈川中央交通、小田急百貨店、小田急不動産など98社(2013年8月1日現在)の企業があり、同社では2011年からグループ全体の経営を支える情報基盤として「小田急統合戦略情報システム(通称:OISIS=Odakyu Integrated Strategic Information System)」の構築を進めてきた。

さらに地域密着へ

 小田急の起点となる新宿駅は日本最大規模の乗降客数を誇るターミナルであり、そこから延びる小田原線や江ノ島線、多摩線の各路線は、人口密度の高い住宅地から国内有数の観光地までをカバーする。同社グループの沿線は大手私鉄の中でも有望な経営環境のようにみえるが、同社では沿線人口がピークを迎えつつあると予想。その後に予想される沿線人口の減少でも、持続的なグループの成長を実現していくことが経営上の大きな挑戦となっている。

「小田急統合戦略情報システム(OISIS)」のイメージ

 OISISは、グループの経営戦略を立案、実行していくための“エンジン”に位置付けられるシステムだ。OISISではグループ各社の売上データや店舗などのカード利用データ、駅の自動改札機から収集した鉄道利用データといったグループ内の情報に、国勢調査や商業統計、人口動態など外部のさまざまな統計データを一元的に集約。これらのデータを必要に応じてグループ内で共有や活用ができることを目指したシステムである。

小田急総合研究所の小暮実主任研究員

 同社グループのシンクタンクとなる小田急総合研究所 主任研究員の小暮実氏は、「少子化などによる沿線人口の縮小が将来の経営リスクになることから、データ活用にもよるマーケティング戦略の実行といったグループ各社の経営を支えるシステムを必要としていた」と話す。

 OISIS以前も、同社では各種データを利用してさまざまな経営施策を行っていたものの、施策の効果をより高めるためには、さらに広範なデータや緻密なデータを取り入れ、それらをグループ内で活用していける仕組みが必要だったという。

「鉄道利用に関する情報はビッグデータにあたるもの。そのままでは使い勝手が悪いので、OISISではマクロ的な視点でデータを一定の規模に集約した。また加えて、街の単位できめ細かく人口や世帯の動向、商業環境などを把握できるようにして、各種データを組み合わせれば、今まで以上に地域に密着した施策を展開できるようになる」(小暮氏)

小田急総合研究所の東成彦主任研究員

 OISIS構築に向けた検討は2010年12月にスタートし、2011年11月にサービス運用を開始した。システムの中核にはIBMのCognos 10を採用する。複数製品を比較検討した結果、迅速にシステムを構築できる点やサポート体制、パフォーマンスの高さや非定型分析など多様な分析機能を備えている点が決め手になったという。

 主任研究員の東成彦氏は、「以前ならデータを出力するだけでも半日近くから数日を要していたものの、今では大幅にこの時間が短縮され、必要なタイミングですぐにデータを活用できるようになった。非定型分析などの機能も使いやすく、業務効率が大幅に向上している」と語る。

データ活用への挑戦

 OISISは運用開始から2年余りが経過している。各種データはグループの現状分析や将来分析、顧客動向、店舗経営などの分析に利用されているが、小暮氏によれば、これまではむしろグループ各社が持つ膨大なデータの蓄積に注力していた。

 「OISISはスモールスタートで立ち上げたため、実際にはまだ完成していないシステムといえるが、過去数年にわたる膨大なデータが蓄積されたことで、本格活用していける準備が整ってきた」(小暮氏)

 現在、OISISのユーザーは小田急電鉄の課長職以上および小田急総合研究所などで業務上必要な担当者だ。利用にあたってはきめ細かいアクセスコントロールを行うことでデータのセキュリティを確保しつつ、必要なデータは円滑に利用できるようバランスに配慮している。こうした点は、列車の安全運行に徹する鉄道会社ならでは意識といえるだろう。

 今後もデータを拡充させつつ、セキュリティレベルを維持しながらグループ内での情報活用を推進していく。「例えば、一部の駅に展開している業績の好調な店舗や周辺地域に関するデータを活用することで、同様の事業環境が期待できる別の地域に出店するといったことが可能になるだろう」(小暮氏)

OISISに蓄積されたビッグデータはグループ企業でのさまざまな戦略に活用されていく(同社サイトより)

 既にソーシャルネットワークなどのビッグデータを活用する取り組みは多くの広がっているものの、基幹業務のデータを活用する動きはこれからが広まると期待される。2011年にいち早く着手した小田急グループの今後の取り組みが注目される。

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