企業のモバイル投資、ROI達成における日本と世界の違いは?

アクセンチュアが13カ国の企業経営幹部を対象に実施した調査によると、モバイルに投資した金額以上のリターンを得ている企業の割合は日本と海外で大きな開きがみられた。

» 2014年07月30日 16時58分 公開
[國谷武史,ITmedia]

 アクセンチュアは7月30日、企業のモバイル活用をテーマにした調査研究の最新結果を発表した。日本と世界平均では特に投資対効果の実現において幾つかの違いがみられるという。

 この調査はモバイルの重要度や優先事項、導入課題の特定を目的に、日本を含む世界13カ国1475人の経営幹部(CIOなど)へアンケートを行ったもの。実施期間は2013年12月〜2014年1月。

 まず「モバイル」「アナリティクス」「クラウド」「ソーシャル」の中で、次年度のIT計画において最も優先度が高いものに挙げられたのはモバイルだった。優先度1、2に挙げた割合は日本が54%と、世界平均の43%を上回る。今後2年間でモバイルに1000万ドル(約10億円強)以上投資するとした割合は、日本が67%、世界平均が75%。同50万ドル以上の投資でも日本は90%、世界平均では92%あり、モバイル投資が世界的に重要なテーマになっていることが分かった。

 モバイル投資から得られるリターンについて、「期待通り」「期待以上」とした割合は日本では86%、世界平均では93%に上る。過去2年間の投資から得たリターンが51〜100%以内の割合は日本、世界平均とも26%だったが、100%超では日本が4%、世界平均では10%と開きがみられ、200%以上という企業は欧米や韓国、ブラジルなど30社あった。

モバイル投資への本格的な評価はどの国の企業にとってもこれからの課題だが、日本以外では大規模な成功を収めているとした企業が存在しているという

 投資対効果でみられる日本と世界の違いについて、モビリティ サービス グループ統括マネジング・ディレクターの丹羽雅彦氏は、リターンが200%以上の企業ではモバイルを活用する上でのプロセスの有無と最高経営責任者(CEO)の関与が影響していると指摘した。

 モバイルを適用するビジネス領域の選定で最適なプロセスが存在すると回答した割合の高い上位5カ国は、カナダ(28%)、英国・中国(ともに25%)、南アフリカ(23%)、韓国(21%)で、中国以外の4カ国ではリターンが200%以上の企業が存在する。日本は17%、世界平均は19%だった。

 また、モバイル戦略にCEOが参加している割合の高い上位5カ国は、中国(56%)、米国(52%)、フランス・韓国・ドイツ(いずれも40%)で、米仏韓の3カ国にはリターンが200%以上の企業が存在する。日本は32%、世界平均は35%だった。

丹羽氏は、「既存ビジネスとの競合が発生する場合もあり、組織の垣根を越えた意思決定にはCEOの関与が不可欠。モバイル戦略はCEOマターだといえる」とコメントし、企業がモバイル活用を推進していくために(1)価値・顧客体験を盛り込んだデジタル戦略の立案、(2)CEOを中心とする組織横断での戦略の実行、(3)リーンスタットアップの実施――が必要だと指摘する。

特に(3)ではモバイル活用のあり方を先に議論するよりも、プロトタイプの作成・検証・改善を高速に繰り返すことが重要だとした。モバイル戦略の実行では人材不足を課題に挙げる企業は世界的に多く、自社だけでなく、外部リソースの活用も推奨されるという。

デジタル技術を取り込め

 今回の調査テーマであるモバイルを含めたデジタル技術について、アクセンチュアは企業や組織がこれを取り込むことで自ら変革し、創造的破壊を通じて新しい価値を生み出すべきだと提起している。戦略コンサルティング本部マネジング・ディレクターの清水新氏は、「新しい価値は従来には無い新しい顧客体験を提供する中で創造される」と述べた。

 デジタル技術による新しい価値の創造は、古くはインターネットが本格普及し始めた1990年代後半に、メディアや通信などの業界で起きた。この段階では「探す」「知る」といった人間の精神的充足感に新たな価値がもたらされたという。

現在は第2フェーズとして小売やヘルスケアなどの業界に作用し始め、「バーチャルからリアルへシフトし、『買う』『遊ぶ』といったリアルな行動における顧客体験が中心となっている」(清水氏)という。さらに、将来は全産業に影響が及んでいく。新しい価値を提供する観点は精神的充足感から経済的便益に移り、「例えば、自動運転技術が確立すれば自動車は単なる『ハコ』になるかもしれないという危機感が自動車業界にはある」という。

 また清水氏は、新興国市場を中心とした日本企業のグローバル展開における課題も指摘する。特に、先進国市場を重視する時代に確立された「個別・部分最適」「情報積み上げ型」の組織構造が、新興国市場重視の現代のビジネスではボトルネックになるという。世界のグローバル企業は「全体最適」「情報共有型」の組織構造を持ち、「意思決定のスピードを高速化させるプロセス、もしくは、データに基づく予測・予知型の経営システムの導入によって成功している」とした。

アクセンチュアが提唱している、デジタル技術を活用して日本企業が変革していくためのポイント

 日本企業が世界のグローバル企業のような組織構造へ転換するために、清水氏はデジタル技術の活用を提唱する。具体的には、ソーシャルやモバイルを利用してビジネスの最前線における変化を吸い上げ、アナリティクスによって「データ」を「情報」に転換する。クラウドによって情報を全体で共有し、情報に基づく意思決定を行っていく。このプロセスをPDCAとして回していくことが、日本企業に求められる経営モデルだという。

 「End to Endで全体プロセスを最適化し、膨大なデータから意思決定につながる最適な情報を得る仕組みが重要であり、モバイルをはじめとするデジタル技術を取り込めるかがポイント。日本企業は創造的破壊に移れるかどうかの分かれ目にいる」と語っている。

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