「エンタープライズクラウド」はどこへ向かうのか──。主要ベンダーのクラウド関連エバンジェリストに最新動向を、そして「エンタープライズクラウドの未来」を予想してもらった。
「エンタープライズクラウド」はどこへ向かうのか。クラウド主要ベンダーでクラウドエバンジェリストを務める4名が考える、エンタープライズクラウド業界の未来とは──。
前編の「エンタープライズクラウドの現状分析」に続き、後編では「エンタープライズクラウドの未来」を予想していただく。
── 今後のクラウドサービスは、どのような方向に進んでいくのか。クラウドが普及するポイントはどこにあるだろうか。
日本ヒューレット・パッカード クラウドチーフテクノロジスト 兼 エバンジェリストの真壁徹氏(以下、真壁氏) クラウドの未来を占うに当たって、私は「アプリケーションのポータビリティはどうあるべきか」と考えている。
さまざまなクラウドサービスが存在しており、ユーザーも悩ましいところだろう。いったん作ったアプリケーションは、ほかのクラウドでも動かしたいと思うのは当然だ。だとすれば、クラウド技術の標準化がポイントになる。
ただ、きっちりとした標準化は難しい。「ゆるい標準化が進んでいく」と予測している。そのカギとなるのが、オープンソース・ソフトウェア(OSS)だ。OSSは、すでにデベロッパーのスタンダードになりつつある。
OSSがエンタープライズ市場にどう浸透していくか、どんどん変化していく世界にユーザーがついてこられるか、ベンダーがそうした追随の手法を提案できるかどうかが、クラウドの未来を左右するだろう。
日本アイ・ビー・エム クラウド・エバンジェリストの北瀬公彦氏(以下、北瀬氏) これまでのシステムは、「機器を購入する」ために変えたくても何年かは使い続けければならなかった。この点で、パブリッククラウドは時間課金や月額課金で使用する形態のため、他社のクラウドサービスや自社のプライベートクラウドへの移行が容易である。そうした観点からも「ポータビリティ」は非常に重要だ。
クラウドベンダーのサービスにプラスαを考えるのであれば、「SIer(システムインテグレータ)の存在」がポイントとなるだろう。システムインテグレータではなく、「CIer(クラウドインテグレータ)」や「ブローカー」と呼んだ方がよいかもしれない。複数のクラウドを扱って、企業のニーズに合わせて提案したり、トータルソリューションとして提供したりする存在だ。
これには、従来のようなレガシーなSIerでは対応できないかもしれない。機敏に動けて、さまざまなクラウドのメリットを知り、迅速に提案できるような事業者が生き残っていくだろう。
インターネットイニシアティブ 営業推進部副部長の神谷修氏(以下、神谷氏) ハイブリッド/マルチクラウド環境で、ポータビリティが重視される状況では、それらを「どうつなぐか」がポイントとなる。そこで当社は、統合的な認証サービスなどの“つなぎやすさの提供”をテーマとして、取り組んでいくつもりだ。
── 「CIer」のニーズが高まるにつれて、既存のSIerは厳しい環境に立たされることになるのではないか。
NTTコミュニケーションズ クラウド・エバンジェリストの林雅之氏(以下、林氏) 同じクラウドサービスを担っているCIerどうしが競合になってしまう。また、ひとたび構築すればノウハウを吸収されて、「あとは自分でやる」とユーザーが離れてしまうことも多いようだ。
北瀬氏 そもそも、全てのクラウドサービスを押さえて提供するのは難しい。ユーザーがクラウドを選択する際には、さまざまなクラウドを「指向性」によって評価し、グローバル展開に強いグループ、コストメリットが高いグループ、トータルソリューションとして活用できるグループなどに区分し、ユーザーが重視するビジネス戦略によってクラウドのグループを選択するという方法もある。この選定方法は、CIerが注力すべきクラウドを選択する上でも有用な手法ではないだろうか。
神谷氏 IaaSがコモディティ化したとしても、事業者によって得手不得手というものは存在する。CIerにとっても、用途に応じてどの事業者が向いているかという評価は可能であろう。
大手SIerの多くは、自社でクラウド基盤を持ってサービスを展開している。この自社サービスを捨てることができるならば、大きく変革できるだろう。
つまり「本業はユーザーの業務全体をマネジメントすることである。インフラは自分の領域ではない。だから、どんなインフラでもよい」と割り切ることができるかどうか。しかし、それが難しいのも事実だ。
真壁氏 確かにその通りだ。ユーザーが「AWSを使いたい」と言うから、しぶしぶ採用しているケースは多いだろう。もちろん、儲けることは難しい。
しかし、他のパブリッククラウドもSIerのクラウドも、同じ技術で構築されていれば問題はなく、ユーザーは投資を集中することができる。だからこそ、HPはオープンソース技術を推進している。
オープンなクラウド技術が普及すれば、ユーザーの見る目も変わる。自社サービスとしても提供できる。そうした世界も1つの可能性だと考えている。
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