相互運用性がカギ、「オープンクラウド」を推進する日本IBM

日本IBMがベンダーに囲い込まれないオープンなクラウドを推進していくことを改めて強調した。同社でクラウド事業を統括する小池氏は、「肝心なのは必要に応じて異なるクラウド環境を行き来できるかどうかだ」と話す。

» 2014年02月10日 08時30分 公開
[浅井英二,ITmedia]

 日本アイ・ビー・エムは先週、都内のオフィスでプレスやアナリストを対象としたクラウド事業戦略説明会を行い、特定のベンダーに囲い込まれないオープンなクラウドを推進していくことを改めて強調した。

 「これまで主に仮想化によるコスト削減策として取り組まれてきたクラウドだが、昨年後半からは日本の顧客企業でもスピードや柔軟性を生かした、成長のためのエンジンとして本格的な活用が始まっている」と話すのは、同社でクラウド事業を統括する小池裕幸執行役員。

 ビジネスの成長や変革のドライバーとして顧客からも期待が高まる中、同社ではクラウドエキスパートを500人規模に増員するほか、営業マン4000人に2日間の集中トレーニングも実施した。1月中旬にはクラウド事業強化のため、グローバルで12億ドル以上が投資することを明らかにしており、今年、日本を含む15カ所にデータセンターを新設する。買収したSoftLayerとIBMの既存のデータセンターを合わせると40拠点となり、各国のデータ保護規制や商習慣にも柔軟に対応できるようになるという。

肝心なのは行き来できること

 本格的なクラウド活用を加速すべく、小池氏が日本IBMの戦略として特に力を注いでいくのが、「オープンクラウド」の訴求だ。

 企業がクラウドの良さを十分引き出すには、既存資産をプライベートクラウド化し、ユーザー企業が資産を持たない「専用」プライベートクラウドやパブリッククラウドと組み合わせる「ハイブリッドクラウド」が適しているといわれるが、「肝心なのは必要に応じて行き来できるかどうかだ」と小池氏。多くのIaaSやPaaSは、ベンダーにロックインされてしまい、プライベートクラウドや別のパブリッククラウドに持ち出すことは難しい。固有の技術要素で構成されていたり、サービスの粒度が大き過ぎるからだ。

 IBMは昨年3月、ラスベガスの「IBM Pulse」カンファレンスで「IBM Open Cloud Architecture」を発表し、SmarterCloud Orchestrator をはじめとする同社のすべてのクラウド製品をOpenStackベースにしていくことを明らかにしている。このOpen Cloud Architectureは、下の図のように、いわゆるIaaSからPaaS、SaaSに至るまでクラウド全体を細分化されたオープンなテクノロジーで構成できるようにする全体像。IBMの製品であるSmarterCloud Orchestratorは、IaaSのオープンソースであるOpenStackを実装したことで、コンピュート、ストレージ、ネットワークといった、プール化された資源をプライベートやパブリックを問わず、標準的な手法で統合管理できるようになるほか、PaaSの領域ではOASIS TOSCA標準をサポートするため、「仮想パターン技術」を利用して複数サーバからなるトポロジーの展開や非機能要件の管理も自動化できるようになるという。

 この日、日本IBMは資源の仮想化にとどまらず、標準化(カタログ化)や複数サーバからなるアプリケーション全体の構築・運用を自動化したい顧客に向け、プライベートクラウド構築支援サービスを拡充することも発表した。顧客はベンダーロックインを避け、そのプライベートクラウド環境を容易に拡張したり、必要に応じてSoftLayerのようなパブリッククラウドとも連携できるようになるという。

IBM Open Cloud Architecture 細分化された技術要素で構成されていおり、それぞれの進化を取り込める。また、オープンであるため、ベンダーロックインを避けることができるほか、コンポーネントやAPIを提供するサードパーティーにビジネス機会が生まれる

オープンなPaaS、Cloud Foundryにも取り組む

 同社はまた、Open Cloud Architectureに基づき、オープンなPaaSづくりに取り組むオープンソースプロジェクト、Cloud Foundryにもボードメンバーとして貢献している。このオープンソースをベースとしたPaaS環境「BlueMix」をSoftLayer上でベータ提供するほか、プライベートクラウドでも使えるよう準備を進めている。既存ハードウェアとSmarterCloud Orchestratorの組み合わせや垂直統合システムであるPureApplication Systemによって構築するプライベートなPaaS環境では、インフラの明示的な構成と管理が必要であるのに対して、このBlueMixでは、いわゆるブラックボックス型のPaaS環境として、それらはクラウドに任せることができる。このため、新しいアプリケーションをクラウド環境向けに手早く開発していくには、Cloud Foundryが適しているという。

 「BlueMixで開発したアプリケーションにしても、SmarterCloud OrchestratorやPureApplication Systemの仮想アプリケーションパターンにしても、そのライフサイクルに合わせてプライベートからパブリックへ、パブリックからプライベートへと持ち出したり、戻したりできることが重要だ」と話すのは、スマーター・クラウド事業統括の紫関昭光理事。同社が目指すオープンなクラウドでは、例えば、急増するユーザー向けにサービスの改良を頻繁に行わなければならないフェーズではBlueMixで開発を迅速に繰り返し、次第にユーザー数の伸びが落ち着いてきたらプライベートクラウドに移す、といったライフサイクルに合わせたワークロードの自由な配置が可能になるという。

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