「ぴんぼっく」を信じる者は救われる?女子ヘルプデスクのプロマネ修行奮戦記(3/3 ページ)

» 2015年05月15日 11時00分 公開
[鐙貴絵ITmedia]
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Aさん 「で、さっき、難しい顔してたのは、『独自性』や『成果物』の意味が分からなかったからなのか?」

わたし 「それもあるんですけど……」

Aさん 「ほかには?」

わたし 「PMBOKの勉強って、役にたつのかなぁ、と思って。私はプロジェクトのことはほとんど何も分からないんですけど、資格って結局、机上の空論で実務には利用できないんじゃないか、という気がして」

Aさん 「確かに、この手の教科書めいたものは机上の空論と思えるものもあるけど、PMBOKはちょっと違う」

わたし 「……」

 ついつい、認めたくない気持ちが思わず態度に出てしまう。

Aさん 「昔、十八代目中村勘三郎さんがね」

 なんですって? イタリア料理店の次は、歌舞伎の話題??

Aさん 「『形を持つ人が、形を破るのが型破り。形がないのに破れば形なし』というようなことをおっしゃっていてね。歌舞伎でもスポーツでも絵画でも、まずは見本というか手本というか、これが正解、という『型』があって、最初はそこから練習するよね。で、その『型』がすっかり身についたら、今度はその『型』を超えるために独自の工夫を加える。一流と呼ばれる人は、みんなそうしているんだ」

 なるほど……。そういえばピカソは、若い頃は写真と見間違えるほどの写実的な絵を描いていたって聞いたことがある。それだけの力があるから、後に落書きのようなシュールな絵を描くようになっても、見る人を惹きつけることができるってわけね。

Aさん 「逆に、ちゃんとした『型』を学ばずに、いきあたりばったりや他人の成功事例のマネだけでなんとかしようとすると、どうしてもある程度以上は伸びない。よっぽどの天才でない限りはね」

 うーん、そんなものなのか。それにしても、PMBOKの説明をするのに、どうして中村勘三郎さんが出てくるんだろう。

Aさん 「プロジェクトマネジメントにおける『型』が、まさにPMBOKなわけ。もちろん業種や会社の規模、その業界の慣習なんかがあるから、PMBOKをそのまま取り入れてもうまくいかないところもある。それでも、まずは『型』をしっかり学んで、そこから自分たちなりのアレンジを加えていくほうが、結果的にいいマネジメントができるんだ。PMBOKはそのための出発点になるものなんだよ」

わたし 「そんなものなんですか……まして、私のようにプロジェクトの経験が浅い、というか、ない人にとっては、『ワラをもつかむ』の“ワラ”なんですね?」

Aさん 「なるほど、“ワラ”か。そうかもしれないね。PMPの資格を取るというのは、自分がPMBOKをきちんと理解できているということを証明するようなものなんだ。会社のほうで、eラーニング受講の手続きをしてもらうから、それも含めて学習を進めながら、プロジェクトの準備をしてみたらどう?」

わたし 「なんだか、丸め込まれたような気がしなくもないけど、そうですね……。ちょっとやる気が出ました。私を助けてくれるツールならちゃんと理解しないと、ですね」

 そっか。本来の目的は「在宅ヘルプデスク部門の開設」で、そのプロジェクトマネジャーに私が任命されたんだっけ。で、不安だからPMBOKの勉強を始めて、いつの間にかPMP試験を受験するって話になって。PMP試験に合格するということが目的になってしまっていた。もともとは、私がプロジェクトマネジャーになったことが始まり……

 そうよ、そこよ! どうして私がプロジェクトマネジャーなのよ! そもそも、そこからおかしいじゃない! それだけでも重荷なのに、PMBOKだの、PMPだのって出てきたから混乱したんじゃないのよ!

 ダメだ。話が振り出しに戻りそうだ。

 いずれにせよ、引き受けてしまったものは仕方ない。PMBOKだって、重い荷物を背負った私を助けてくれるツールだと考えることにしよう。そう考えると、全面的に頼りたいと思う気持ちが生まれたかも。にょろにょろとしていたやる気に細い芯ができて、すぐに倒れるような状態ではなくなったかな。あー、でもマニュアルを読むのが大の苦手な私は、果たして「プロジェクトマネジメントのマニュアル」たるPMBOKを理解できるのか?

 とはいえ、プロジェクトを担当するからには、成功させたい。何も知らない私にとって、指針となるものなら、ちゃんと前向きに勉強すべきだろう。何もかもまだ始まったばかり。入り口部分で立ち止まっているわけには行かない。よし、どうせやるならプロジェクト成功とPMP合格と両方を手に入れよう。勉強は嫌いだけど、やるしかないね。在宅ヘルプデスクのプロジェクトはすでに始まっているのだから。

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