セルフサービスBI

データドリブンな企業風土をどう作る? リクルート、スカパーの事例に学ぶ「セルフサービスBI」セミナーリポート(2/4 ページ)

» 2015年11月09日 08時00分 公開
[池田憲弘ITmedia]

ライセンス費用の“壁”をセルフサービスBIで突破

 BIを意識したダッシュボードを構築するにあたり、壁となったのが業務部門のITスキルだった。複数のデータソースをつなぎあわせ、分析する価値のあるデータを作るだけの知識がない。そこでSIerに開発ベンダーを紹介してもらい、ツールを含めた開発と会社全体でのデータマネジメントに踏み出した。

 こうして2014年7月にダッシュボードの構築を開始。現場の管理者自身が各拠点・ユニットの実情に応じて任意の視点でデータ分析を進められる環境の構築に取り組んだ。しかし、ライセンス費用が高額になる問題が立ちはだかった。

 「当初展開をしていた200人以上全員にライセンスを付与すると、導入だけで数千万。保守もいれると億単位。ダッシュボードを定型リポートとして使うならば、Excelファイルの自動配信で十分です。リテラシーの高い一部のユーザーなら使いこなせるかもしれませんが、確実に費用対効果が出るという説明がつかず、プロジェクトが止まってしまいました」(中島氏)

 そして、新たに現場向けのデータ分析製品を検討していた際に、ちょうど無償のセルフサービス型BIツールである「Qlik Sense」がリリースされ、すぐにデスクトップ版の検証を開始したという。その結果、参照可能なデータ量に制限がかかるものの、QlikViewデータベースをそのまま使用でき、開発側で構築したダッシュボードを無償かつ無制限で共有できる点を評価し、導入に踏み切った。

photo Qlik SenseをSPCCで検証した結果

 Qlik Senseを導入したからといって、QlikViewが不要になったわけではなく、これまでと同様にデータベースとして使い続けることで、両者のメリットを生かした運用体系となった。「現場のニーズやITスキルに合わせ、背伸びし過ぎず有効活用するのが大切だと考えています」(中島氏)

photo QlikViewおよびQlik Senseのシステムと利用方法

社内にデータ分析の“文化”を定着させるには

 QlikViewとQlik Senseの両者を導入したことで、一人のユーザーからどれだけ電話をもらっているのか、電話をかけてきたユーザーをどれだけ待たせているか、といった分析が可能となった。ライトユーザーは定型リポートの参照・分析を、ヘビーユーザーはビッグデータ分析や定型リポートの構築を行うスタイルが確立され、会社全体で月当たり500時間の人件費が削減でき、導入費用を回収できるペースの効果を得たという。

 今後はカスタマーセンターに集まるデータを分析して使いこなし、マーケティングのデータとして使えるようにしていくことが目標だという。「私たちの目的は、データを活用してマーケティング活動や運用改善に役立てることであり、セルフサービスBIはこれらの活動を支える、1つの選択肢に過ぎません。今後は入電数の予測精度を高めたり、音声データをテキスト化して分析することを考えています」(中島氏)

 そして、社内のデータ活用をさらに推進していくという目標を持っているという。中島氏は「ライトユーザーにとって本当に大変なのは、ツールの使い方を理解することではなく、データの意味を理解すること」と話す。集約した全てのデータの意味を理解させるのは難しい。彼らを助けるにはサポートの体制を強化する必要があるという。

 現在SPCCでは、業務部門からIT部門への技術やノウハウの移行を進めている。現在の1.5人での開発体制から、組織的なデータマネジメントができるよう体制強化をしているという。「業務部門によるトライアルからスモールスタートしたプロジェクトが、1つステージを上げた、と言い換えてもよいでしょう」と中島氏は強調する。

 データドリブンとはツールではなく企業文化である――。セルフサービスBIの導入を通じ、中島氏はこの言葉に深く共感しているという。

 「データ活用は、業務部門とIT部門が二極化していては機能しません。誰かが両者をつなぐ役目を果たさなければ、組織的なデータ活用は進みません。そして、セルフサービスBIの導入においては、自社に合うのかをよく見極めて無理をしないこと、地道なデータ整理を担当している人に光を当てること、経営者や管理者の理解が得られるよう分かりやすく説明すること。この3点が重要になると考えています」(中島氏)

photo 業務部門とIT部門が協力し、外部の開発サポートの助けも得ながら、身の丈にあったデータ分析環境を整えることが大切だと中島氏は語った

意思決定スピードを高めるための「セルフサービスBI」

photo セミナーで登壇した、リクルートライフスタイル ネットビジネス本部 ディベロップメントデザインユニット 前田周輝氏

 セミナーの後半では、旅行専門雑誌「じゃらん」、クーポンマガジン「ホットペッパー」、習い事・資格情報誌「ケイコとマナブ」といった事業を展開しているリクルートライフスタイルのセルフサービスBI導入事例が紹介された。

 近年、顧客との接点が紙からWebへと移るにつれ、事業のスピード感が増し「意思決定のスピードを上げたい」という強い課題意識を持ったという。扱うデータが大きく複雑になるにつれ、データ分析の専門チームの手が回らなくなり、最終的にセルフサービスBIツール「Tableau」の導入に踏み切った。

 このセッションについては、ITmedia エンタープライズで別途、導入事例記事として掲載しているので、こちらの記事を参照してほしい。

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