第5回 ファイルがなくなる? データの配置や保存の仕組みがどうなるかクラウド社会とデータ永久保存時代の歩き方(2/2 ページ)

» 2015年11月18日 07時30分 公開
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ファイルストレージとオブジェクトストレージの違い

 上記のような3つの要求を満たすストレージとして、パブリッククラウドや研究機関で使用されているのがオブジェクトストレージです。既に実績がありますので、全部のストレージシステムをオブジェクト型にすればよいのではないかと思いがちですが、そう考えるのは早計です。

 オブジェクトストレージは、これからのWebスケール時代に求められ、今までのファイルストレージが対応できていない機能を持っていますが、現段階で全てのファイルストレージを置き換えるのは容易ではありません。以下にオブジェクトストレージとファイルストレージそれぞれの得意・不得意分野をまとめてみます。

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 上記の特性を鑑みると、現段階でオブジェクトストレージは以下のような分野に適しているといえます。

  1. コンテンツデポ、コンテンツアーカイブ
  2. 動画、ゲームなどのWeb配信
  3. セキュリティログデータなどの半永久的な保存
  4. 研究機関などで生成されるデータの半永久的な保存
  5. 簡易データバックアップ

 逆に、データへの頻繁かつ複数のアクセスがあり、アクセスのコントロールや一貫性が重要なデータベースなどには、従来のファイルストレージが向いています。

 また、上の表にある「データの堅牢性」という項目を補足すると、これはオブジェクトストレージのデータ保存法がいたって簡単であることに関連しています。一見関連性はなさそうですが、通常のオブジェクトストレージは同じデータを異なる場所に分散して配置します。データの3つのコピーを異なる地域(例えば東京、シンガポール、US)に配置するといったことが可能です。仮に2カ所のデータが読めなくなっても、残りの1カ所からデータが読めればよいわけです。

 これを5カ所とか、それ以上に増やすことで、簡単にデータの堅牢性を高められるわけですね。最近では「Erasure Coding(EC)」という、以前から使われているエラー訂正符号をオリジナルデータに付加させることによって、単純に大量の数のコピーを作成しなくても、少ない容量で同様の堅牢性を実現する技術もあります。

オブジェクトストレージのこれからは?

 従来は大容量データを長期にわたって蓄積する研究機関や、企業のアーカイブデータに使われることが多かったオブジェクトストレージですが、最近ではネットワークの高速化、SSDを含むフラッシュメモリの大容量化と低価格化などによって、より身近なストレージとして使われる機会が増えてきました。

 今後はオブジェクトストレージのネックと思われている通信スピードの改善も期待されます。例えば、Ethernetのロードマップでは2020年に200Gbps(理論値)の実現が見込まれていますし、「シリコンフォトニクス」といった技術も出てきています。もちろんデータベースやアプリケーションを従来とは異なるオブジェクトフォーマットに合わせる必要もありますが、今後出てくるクラウドネイティブのアプリケーションが、オブジェクトストレージのより広い範囲の活用を可能にしていくかもしれません。

著者:井上陽治(いのうえ・ようじ)

日本ヒューレット・パッカード株式会社 ストレージテクノロジーエバンジェリスト。ストレージ技術の最先端を研究、開発を推進。IT業界でハード設計10年、HPでテープストレージスペシャリストを15年経験したのち、現在SDS(Software Defined Storage)スペシャリスト。次世代ストレージ基盤、特にSDSや大容量アーカイブの提案を行う。テープストレージ、LTFS 関連技術に精通し、JEITAのテープストレージ専門委員会副会長を務める。大容量データの長期保管が必要な放送 映像業界、学術研究分野の知識も豊富に有する。


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