人工知能に人間と同様の知能を実現させようとする試みには、大きく2つの方向性があります。人工知能が抱える課題や限界を踏まえながら整理していきましょう。
カップめんを待つ間に、電車の待ち時間に、歯磨きしている間に“いまさら聞けない”ITトレンドが分かっちゃう! 今さら聞けないITの最新トレンドやビジネス戦略を、体系的に整理して分かりやすく解説する連載です。「この用語、案外、分かっているようで分かっていないかも」「IT用語を現場の社員にもっと分かりやすく説明できるようになりたい」――。情シスの皆さんのこんな課題を解決します。
「2045年、コンピュータが全人類の知性を超える」――。米国の未来学者であり、Googleの研究者でもあるカーツワイルは、コンピュータの進化の行き着く先には、このような時点が待ち構えているとし、これをシンギュラリティ(Singularity:技術的特異点)と呼んでいます。果たして本当にこのようなことになるのかどうかは分かりませんが、少なくとも現時点ではまだ課題が多いことを理解しておく必要があります。
確かに人工知能の進化には、ここ数年目を見張るものがあります。ただ、その成果は、画像認識や音声認識、対話応答といった特定の知的作業領域に止まっています。
画像認識では、画像に写っているものを識別する能力において、人間の能力に匹敵するか、それ以上の能力が実証されています。例えば、CTやレントゲンの映像から病巣を見つけ出す、あるいは防犯カメラに写った来店客の挙動から窃盗の可能性を察知するなどの実例があります。
また、音声認識では、異なる言語同士の対話をリアルタイムで翻訳するサービスが登場しました。さらに、対話応答の分野では、がんの診断所見を入力しながら対話的に質問を繰り返していくことで、膨大ながん研究の論文や治療データを調べ、最も適切と思われる治療方針や薬についての情報を医師や患者に提案してくれるといったこともできるようになっています。
このように、人工知能は、特定の知的作業領域において既に人間の能力をしのぐほどの実力を示し、既に実用化されているものも現れています。
しかし、それらは人間の脳機能で行われる知的作業の一部を代替したにすぎず、人間の脳機能の全てを代替するものではありません。そもそも、脳機能やそれを実現している仕組みそのものは未解明なわけですから、仕方がないことです。
例えば、「自分が何者か」という自己理解は人工知能にはできません。また、意識や意欲などということになると、それがそもそも何か、どのような仕組みで実現しているのかさえ分からない状況です。このような機能も脳機能の一部であるとすれば、脳の活動を全て機械で実現するというのは容易なことではないことが分かります。
一方で、そのような脳全体の機能や仕組みを解明し、それを人工知能として実現しようという取り組みも行われています。将来的には、意志を持ち、自ら課題を発見し、自律的に能力を高めていく人工知能が登場するかもしれません。そうなれば、カーツワイルの言うところのシンギュラリティも現実味を帯びてくる可能性もあります。
ただ、今の段階では、まだまだハードルが高いのも現実といえるでしょう。そんな人工知能の抱える課題と限界について図解して整理してみたので、あわせてご覧ください。
人工知能には、このような限界がある一方で、既に人間の能力を超える知的作業領域もあります。そのような現実に正しく向き合い、その用途を広げていくことをまずは考えていくべきではないでしょうか。
日本IBMで営業として大手電気・電子製造業の顧客を担当。1995年に日本IBMを退職し、次代のITビジネス開発と人材育成を支援するネットコマースを設立。代表取締役に就任し、現在に至る。詳しいプロフィルはこちら。最新テクノロジーやビジネスの動向をまとめたプレゼンテーションデータをロイヤルティーフリーで提供する「ITビジネス・プレゼンテーション・ライブラリー/LiBRA」はこちら。
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